Book Reviewに関するエントリー

 

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本書「魚には水、私にはワイン」はワイン輸入販売業を長年に渡り営んできた中川一三氏が自らの体験を交えて綴るカリフォルニア・ワインの書。

 

タイトル「魚には水、私にはワイン」を見て、「川島なお美かよ」というツッコミを入れたくなるが(笑)、著者は立派なおっちゃんです(失礼)。中川氏は「中川プランニング」と「中川ワイン販売」という二つの会社のオーナーであり、最近一線を退くまでは同社の社長さんだった方とのこと。僕自身飲食業界にいた時期があったので、中川ワイン販売という会社の名前は、何となく聞き覚えがあったような気がした。

中川氏が語るところによると、地上最高のワインはカリフォルニア産のピノ・ノワールなのだそうだ。本書の冒頭に出てきたこのフレーズを目にして、軽い違和感を感じた。地上最高のワインといえば、フランスのロマネコンティなりシャトー・マルゴーなりではないのか、と。

中川氏は一人でワインを飲むことはなく、常に自宅のワインセラーに友人・知人を招いて「ワイン会」を開催するのだそうです。その頻度は週に4〜5回とのことで、その名も「和飲之樂」(ワインこれ楽し)だそうだが、まあなんとも優雅なことで、思わず本に向かって「随分お金があっていいねえ」と呟いてしまう。

同氏がワインにはまったきっかけは生来の野菜アレルギーで野菜がまったく食べられず、ならばと医者にワインを進められたことがきっかけだったそうだが、人間まったく野菜を食べずにワインが飲める歳まで元気で生きられるのかと驚いた。また、同氏は有名レストランに自分が購入したワインを数十ケース単位で送りつけ、自分が客として訪問する際にはそのワインを出させるのだそうだが、これも何だかちょっとやり過ぎというか、金にモノを言わせてワガママをするオッサンという感じがしてどうも素直に読むことができない。自分がつくづく貧乏性だなあと感じる瞬間である。

ワインについてはそれほど詳しくはないのだが、でもピノ・ノワールやカベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、メルローなどはさすがに分かる。本書では一本数十万円から数百万円もするような「カルト・ワイン」について蘊蓄が語られているのだが、その部分は読んでも良く分からず、だが、ワインの産地で今どのようなことが起こっているかということや、ワインのラベルを「エティケット」と呼び、ラベルに産地やヴィンテージなどの情報書いたことから「自己紹介」という意味が生まれ、さらに派生して「自分が所属する場所での礼儀作法」という意味なったという話などはとても興味深い。

地球温暖化の影響でブルゴーニュ地方ではワインが採れなくなりつつあり、しかもフランスは政府による規制が非常に厳しく、地面にビニールシートをかぶせて保護したり、土地改良をしたりという科学的改善法が採れないため、大金持ちやマニアに人気のワインはどんどんカリフォルニアにシフトしているのだそうだ。

そういえば以前何かの雑誌でフランスでワインが不作になるだろうという記事を読み流したのだが、それにはそのような側面があったとはまったく知らなかった。勉強になるなあ。

ワイン会には宮澤喜一氏や高円宮殿下、白州次郎、長嶋茂雄などの著名人も顔を出したそうで、IMF理事のスペイン人まで登場したというからビックリではある。ただ、主催者本人が書いているとおり、この会に来ると、ビックリするぐらい高価で貴重なワインがたらふく飲めるというのが噂になって人が集まっているようなのだが、それってひょっとして著者の人徳に人が吸い寄せられているのではなく、ワインに人が集まっているだけなのではと思ってしまうのだが、著者が分かっているようなので、まあいいかとも思う。

本書で熱く語られているカリフォルニアのカルト・ワインにはとても手がでないけれども、今度のお給料日になったら、いつもよりちょっと高めの、そうだな、一本3,000円ぐらいのカリフォルニアの赤ワインを買って、久し振りにデキャンティングでもして飲んでみようかという気にさせられてしまった。

わはは、危険な兆候であることは間違いない。充分気をつけよう。

 

魚には水、私にはワイン—Pisces Natare Oportet.
魚には水、私にはワイン—Pisces Natare Oportet.
著者:中川 一三
出版社:木楽舎
出版日:2009-01
価格:¥ 1,575
ランキング:6682位
在庫状況:通常1〜2か月以内に発送
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樋口健夫著の「できる人のノート術」は、紙のノートを使った情報管理・思考育成術をまとめた本。

先日読了して非常に感銘を受けた午堂登紀雄著「脳を「見える化」する思考ノート」の中でこの「できる人のノート術」の良い部分を参考にした、という記述があったため早速読んでみた。

樋口氏はリタイアした元商社マンで、この本が発行された2007年の時点で20冊以上の本を刊行していたそうだが、僕はこの人の名前は今回始めて知った。

著者はなかなか濃いキャラクターを持つ人物のようで、ノート術というよりは、著者の風変わりな人物像が目についてしまい、ついニヤニヤしてしまう部分が多く、本来の目的とは違う意味で楽しんでしまったような気がする。

だが、元来のノート術という部分では、どのような内容をいかに書くか、という部分の説明はほとんどなく、「新入社員」編や「会議議事録」編、それに「余命短いがん患者となった両親の闘病」編、中学生になった息子の「定期試験対策」編など、ノートを活用しているとどんなに人生が豊かになるかを、自分の経験値に基づいて羅列している「壮大な自慢話」となっており、この一冊を読んだからといってノートの達人にはなれそうになく、むしろ先日読了した午堂登紀雄氏の本の方がよっぽど実践的であった。

また、一部実例も挙げて説明がされてはいるのだが、その例があまりにも特殊過ぎたり、または同氏が提唱する「アイディア・マラソン」に関する記述が延々と続いてしまい、アイディア・マラソンに関する予備知識を持たずに読んでいくと戸惑う部分も多い。

ただ、時系列に仕事のこともプライベートのことも何でも記録していく点や、インプットとして書き込むこと以上に、後からその記述を見返して、さらにレベルアップした思考を脳から導き出すアウトプットが肝心な点であることを説いていることに非常な意義を感じる。

僕自身、常にノートを持ち歩いて日々の思いを書くようにし始めて数週間が経つが、明らかに自分の思考が熟成され、より豊かに変化し始めていることを感じる。樋口氏が言うように、幼少の頃からノートを持ち歩いて思考を熟成させる訓練を積んだら、相当すごい人間になれるだろうと、真面目に思う。

そういう意味でも、この本はノウハウ本というよりも、昭和から平成の日本経済を支えたモーレツ商社マンが書いた「ノート術大家の成功事例集」として読むととても楽しく豊かに心に入ってくるだろう。どうでもいいが、樋口氏がいかに「ヨメサン」を愛しているかも良く分かってなかなか素敵だ。読んで損はないだろう。

 

できる人のノート術 (PHP文庫)
できる人のノート術 (PHP文庫)
著者:樋口 健夫
出版社:PHP研究所
出版日:2007-01-06
ランキング:112886位
おすすめ度:
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本書「脳を「見える化」する思考ノート」は、サブタイトル「夢を実現する究極のアナログツール」のとおり、著者午堂登紀雄が自らが活用し成功体験を得た、アナログのノートを活用した思考育成術を記した書である。

読み始めてすぐに、うわっと目から鱗が落ちる思いに捕われた。本書がすごく斬新なことを提案しているわけではないのだが、たまたま僕が自分自身の思考について感じていた行き詰まりを解放する術として、非常に有効だと感じられたのだ。

また、読み進むうちに、この本で提案されている思考術は、一見初心者向けを装っているが、実は色々な整理術や企画術などが組み合わせられており、なかなかの難易度であることにも気付かされた。KJ法やマインドマップの活用などについても、ごくさらりと触れられているものの、本書の思考術の中核はマインドマップとKJ法の応用的組み合わせだと思うので、この手の本を初めて読む読者にはやや難易度が高い内容だろう。

さて、本書で語られているノート術とは、とにかく何でもノートに書いてしまえ、ということに尽きるのだが、iPhoneやオンラインサービスなどを駆使して情報を管理している僕にとって、一番物足りなかった、「思考の育成」における自由度と思考の継続性という部分で今一番欲しかった形なのではないかと期待しており、今日から早速ノートを使っての思考育成を初めてみた。

世の中に溢れる情報を検索したり、登録したり、整理したりするのには、MacやiPhone、それにオンラインサービスなどは最高のツールでまったく文句はないのだが、頭の中に格納された情報を思考に昇華し、それを柔軟かつ大胆に育成して開花させるには、MacやiPhoneなどのツールだけではあまり便利ではないと感じていた。

確かにマインドマップ用のソフトはインストールしているし、それを使って事象をビジュアライズしたことは何度もある。だがいつも、マインドマップソフトの操作性の限界みたいなものが邪魔になってしまうのと、Macの前に座り、マインドマップソフトを起動しないと思考育成がスタートできず、しかも一つの題目に対して一つのシートという形で分断されてしまい、思考と思考を繋ぐ回路がないことも不便と感じていた。B5サイズのノートなら、自分が描きたいように自由にページ全体を使えるし、いちいちソフトを起動する必要もない。また、パラパラとページをめくれば前後に存在する関連する(または関連しない)別の思考と連動させることも容易で、しかも書き足しもとても簡単。

中でも、自分の人生戦略や欲望、願いなどを全て吐き出す「ブレイン・ワークアウト」は非常に魅力的だ。ノートを買い替えるたびにこの作業をアップデートしながら行うという一節を読んで、是非自分もやってみようと感じさせる説得力があった。

この本に書かれているノート術は万人向けではないかもしれない。だが、ある程度PCやモバイルなどを使いこなしつつも、まだ何か「もう一つ」が足りないと感じている人には、アナログ回帰の偉大な効能に驚かされるかもしれない。少なくとも僕は驚いた。

 

脳を「見える化」する思考ノート
脳を「見える化」する思考ノート
著者:午堂 登紀雄
出版社:ビジネス社
出版日:2008-08-28
ランキング:11887位
おすすめ度:
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著者の勝間和代という人物については今年に入ってからずいぶんあちこちで名前を見かけるようになって興味を持っており、一冊何か読んでみようと思い、手に取ってみたのが本書「無理なく続けられる年収10倍アップ勉強法」である。

タイトルの「年収10倍アップ」の部分が胡散臭い感じでちょっと眉唾かなと思っていたのだが、読み終えたところ、非常に全うな本で、本を売るために付けたと思われるこのタイトルは寧ろ逆効果なのではないかと感じた。

読んでみて非常に強く感じたことは、著者は非常に現実的な人なんだなあということ。本書は勉強したい社会人をターゲットに書かれているのだが、冒頭から勉強の目的を「年収アップ」に固定し、さらに年収アップが「幸福」と直結することと定義してしまっているところが凄い。

「年収を増やして幸福になろう」というと、非常に「身もふたもない」感じがするのだが、感心させられるのが、その幸福を身につけるために行うべき勉強についての記述が非常に鋭く的を射ている点だ。

勉強を継続させるためにいかに効率を上げるかに関しては、隙間時間を埋めるためにオーディオブックを英語で聴く、そのためにはmp3プレーヤーを買いなさい。だが、ヘッドフォンが安物だと雑音が気になって集中できないからノイズ・キャンセリング機能が付いた高いヘッドフォンを買いなさい、というような、非常に現実的だが説得力のある切り口で勉強に挑む姿勢を導いていく。

もう一つこの本が清々しく感じる点は、情報の出し惜しみがない点だ。ノウハウはどばっとそのまま出してしまっているのだが、そこには、自分だけの年収を上げるのではなく、日本人全体がもっともっと作業効率を上げ、欧米諸国並の生産性に追いつくことで長時間労働から解放され、その結果少子化に歯止めを掛けようという、著者の想いが伝わってくる。

本書では英語、会計、ITを具体例として、勉強に挑むにあたってのノウハウやコツが記されている。僕自身も英語とITについては一定水準以上だと自負しているが、会計についてはまったく何も知らないに等しい。あと、速読についても勉強したいという気持ちにさせられた。

人間何歳になっても新たな勉強をして自分を磨くという姿勢が大事だと思うが、こうして非常に具体的なノウハウを開示してくれる本はなかなかないと感じる。勝間和代の本は、もう何冊か読んでみてもいいな、という気持ちにさせられた。

勉強はしたいが、何からやって良いか分からないという人にもおお薦めだろう。とにかくぼんやりと生きてはいかんし、かといって、ただ無闇にバタバタ生きてもいかんということだ。

 

無理なく続けられる 年収10倍アップ勉強法
無理なく続けられる 年収10倍アップ勉強法
著者:勝間 和代
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
出版日:2007-04-05
ランキング:393位
おすすめ度:
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現マイクロソフト日本法人社長の樋口泰行氏が日本ヒューレット・パッカード社長時代の2005年に出版した自伝的ビジネス論。

樋口氏のキャリアに沿う形で、彼が学んだこと経験したことをベースに、彼が考えるビジネス論が展開されていくのだが、読み始めてすぐに思うのは、まあこの人は実に良く働くということ。

とにかく朝から晩まで働き続けるのだ。最初に就職した松下では溶接機器の事業部で技術者として働いていたのだが、ラインを止めずに済むように不具合のあった機器の基盤の改修を徹夜でやり続る。転職先であるボストン・コンサルティング・グループでは徹夜続きで会議中に失神して救急車で病院に運ばれ、病院からまたオフィスに戻って仕事を続けたりと、まあ本当に呆れるほど良く働く。

松下からハーバード・ビジネススクールに留学した期間に勉強に向かって邁進する様子も描かれているのだが、これがまた実に猛烈。一年分の歯磨きや衣服などをスクールが始まる前に買い揃え、授業が始まってからの一年かはほとんど町に出ず、とにかく眠りもせずにひたすら勉強をしまくるのだ。誇張することも自慢することもなく、訥々と書かれる彼の半生は常に目標が正面に据えられそこからぶれることがなく、猪突猛進、迷うことがない。

ボストン・コンサルティング・グループからアップルコンピューターへ転職し、そこで当時不調だったアップルでキャノン販売との拡販に勤めたあたりから、僕が就職をして業界に触れ始める時期とリンクしてきて、より物語がリアルになってくる。僕が初代Macを買った頃、樋口氏はまさにアップルで悪銭苦闘していたわけだ。

その後樋口氏はコンパックに移り、さらにコンパックとHPとの合併でHPのサーバ部門の統括本部長に就任し、その後取締役を経験しないままいきなり社長に抜擢される。

この本が書かれた時点では、樋口氏はまだ日本HPの社長であった。だが、その後樋口氏はHPを退職して経営再建中のダイエーの社長になり、さらにダイエーを退職してマイクロソフト日本法人の社長に就任した。まあ実にめまぐるしく会社を移っているなあという感想を持つ。著書で樋口氏は最低でも3年は同じ会社で働くべき、と持論を展開しているが、果たして3年で成果が出るものだろうかと疑問に思う。でも樋口氏から見れば、「3年もあるのに成果が出ないのは怠慢だ」ということになるのかもしれない。いやはや激烈である。

彼の日本HP退職から後の人生についても、きっと悪戦苦闘と激務の連続であったのだろうと思うと、この本のタイトル「愚直」論というのはまさに言い得て妙で、これほどぴったりな書名はないと感じる。ただ、この本を読んだ感想として、この人は社員を幸せにする会社経営が果たして出来ているのか、ちょっと心配になったということである。

企業のトップ・マネジメントがあまりにもガツガツと激務に励むというのは正直どうなのだろうと思ってしまう部分もある。彼自身は著書の中で述べている通り、趣味も持たず家庭も顧みずに生きてきたとそうで、それはもちろん悪いことではないのだが、本の中で、彼と同じように仕事を中心に据えて生きない人を否定するような発言があり、その点がやや心配である。

高い目標を掲げて邁進し、自己実現出来る人間はもちろん優秀なわけで、自分自身がそのように生きてトップになり、同じように生きられる人間を抜擢して要職に据えることは社長として事業を成功させるために大切なことではあるのだろうが、数千人規模の社員の中にはそのような生き方を求めない人や、そのようにしたくても上手く人生を描けない人も多いのだ。

そういった大多数の人間をいかに束ねて「その気にさせるか」についての記述が殆どなかった点が、ちょっと気がかりだなあ。まあとてつもなく努力してるし優秀なんだということは嫌というほど分かるのだけれども、なんだかとても非寛容な感じが滲み出ていて、この人には人間的魅力が果たしてどれぐらいあるのだろうか、とも感じる部分があった。

樋口氏が短期間で異なる会社の社長へと転職を続けていることもちょっと気になるなあ。部下を取りまとめてぐいぐい引っ張って行くには、部下が「この親分に付いていくぜ!」と熱く思わなければいけないのだが、付いて行きたくても肝心のボスが2、3年でコロコロ会社を変わってしまっては、付いて行きようがない。

とはいえ樋口氏はまだ51歳のはず。この若さで既に3社の社長経験者なのだから凄いことだ。マイクロソフトの次のことも当然考えているだろう。HP後の樋口氏の自伝が出たら、また読んでみたいと感じる。前に進むパワーはとにかく見習うべきだ。

「愚直」論  私はこうして社長になった
「愚直」論 私はこうして社長になった
著者:樋口 泰行
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2005-03-04
価格:¥ 1,680
ランキング:80199位
おすすめ度:
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 本書「騎士の十戒」は、北京オリンピックでフェンシング・フルーレ競技で日本人初の銀メダルを獲得した太田雄貴が書いた、自らのフェンシング史と競技としてのフェンシングの紹介、さらにフェンシング競技の根底に流れる「騎士道」を絡めて紹介した本である。

なにせまだ24歳の若者が書いた本であるため、ところどころに稚拙な思い込みや検証が足りない断定があったりするのだが、それを差し引いても、著者太田雄貴が持つフェンシングへの強く熱い思いがヒシヒシと伝わってくるし、新渡戸稲造の「武士道」を引用しつつフェンシングに宿る騎士道を説明する部分など、かなり良く練られた構成だと感じさせられる。

日本国内の競技人口は僅か数千人というマイナー競技フェンシング。太田雄貴は無名フェンシング選手だった父に誘われて10歳にしてフェンシングを始める。その日から4,000日以上、一日も休まずに練習を続けた彼の姿勢も大したものだが、幼い太田雄貴を導き続けた父もまた凄いと感じさせる。さらに、その父の隠れた想いを太田雄貴氏がしっかりと受け止め、著書で感謝の言葉を述べ続けているというのもなかなか凄い。

思春期を迎えた親子というのは、えてして親の想いに子が反抗し、その子の姿を見て親は怒ったり絶望したりして、なかなか親が思うような道に子供は進んで行かないものだが、太田親子は父が導くフェンシングへの道にまっすぐに猛進していったわけだが、これはなかなか希有なことである。

全日本入りしてからのウクライナ人コーチ、オレグ氏との確執とそれを乗り越える姿勢も若者ながら大したものだ。父や先輩との我流でやってきていた太田雄貴は当初オレグコーチの指導に共感を得られず、結果不振に喘ぎ、後輩達に追い抜かれて行くのだが、そこで一発頭を下げてコーチに教えを請い、意見が異なると思っても一度決めたら相手の指導にしっかりと食らいついて行き、結果オリンピックでの銀メダルにまでつなげてしまった。

向こうっ気が強く自分が納得していない相手に頭を下げられなかった自分自身の高校・大学時代と較べると何という違いだろうか。

どんなマイナー競技でも、世界的に人気がある競技であれば、強い選手が出れば国内での扱いも当然大きくなる。北京での太田雄貴の活躍をテレビで見てフェンシングを始めた子供達というのも少なくないだろう。

北京で獲得した銀メダルは「過去のもの」と言い切り、ロンドン五輪での活躍を誓う著者の今後の活躍に期待したい。

 

騎士の十戒    ——騎士道精神とは何か (角川oneテーマ21)
騎士の十戒 ——騎士道精神とは何か (角川oneテーマ21)
著者:太田 雄貴
出版社:角川グループパブリッシング
出版日:2009-02-10
価格:¥ 740
ランキング:48092位
在庫状況:在庫あり。
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本書、「天皇陛下の全仕事」は、産經新聞の宮内庁記者クラブに勤務していた著者、山本雅人氏が、現代の天皇陛下がどのような仕事をどのようにこなしているのかを定量的に網羅して捉えた本である。

僕自身天皇陛下の仕事内容については「たまに外国からの賓客があったら晩餐会をやったり、国体でスピーチしたり、相撲見たりしてんじゃないの?」ぐらいの知識しかなかったのだが、いやはや天皇陛下の仕事というのは実に多岐に渡り、しかも常に多忙であることを、本書を通して知ることができた。

元日は朝の5時過ぎから神事を行い、多い日には一日に6件ものアポが入り、静養中の御用邸にまで決済書類が追い掛けてきて、定年がなく天皇を辞めるには死ぬしか選択肢がなく、休日出勤も非常に多いという天皇陛下の超多忙な日々が、実に詳細に説明されていく。

昭和から平成に時代が変わり、今上天皇の時代になってから新たに始められた公務も多いということも知らなかった。大きな災害が起こった際に現地にお見舞いに行く活動や、サイパンなど、第二次大戦の激戦地に対する慰霊訪問なども、平成になって今上天皇が始められた新たな活動である。

多岐にわたる皇室行事のうち、神道に関連する行事には宮内庁職員は関わることができず、天皇のポケットマネーにあたる内廷費から支払われる職員を雇用していることや、同じ皇族でも天皇家と皇太子家と、それ以外の皇族では国家予算からの支出項目が違うことなど、僕らが知らない皇族についての知識が満載で、非常に興味深く読めた。

それにしても、職業選択の自由もなく、被選挙権も投票権もなく、住む場所も選べず、結婚をするにも内閣の承認が必要であり、定年もなく、決済する仕事は山のようにあっても拒否する権利はないなど、読んでいるとなんだか段々天皇陛下が気の毒に感じられてしまう。

ただ、日本の首相には国家元首としての自覚がないように思われる分、天皇陛下は対外的な品位や格という意味での日本の威信を一手に引き受けているように感じられ、やはり日本には天皇が必要なんだな、と改めて感じさせる本であった。

来年あたり、新年の一般参賀にでも行ってみるかな。あれも一生に一度ぐらいは行ってもいいかもしれない。

 

天皇陛下の全仕事 (講談社現代新書) (講談社現代新書)
天皇陛下の全仕事 (講談社現代新書) (講談社現代新書)
著者:山本 雅人
出版社:講談社
出版日:2009-01-16
価格:¥ 945
ランキング:1123位
おすすめ度:
在庫状況:在庫あり。
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村上春樹がエルサレム賞を受賞した際のスピーチについては以前書いた通りだが、今日発売の文藝春秋に、村上春樹の独占インタビューと受賞スピーチの英日全文が掲載されたので、早速購入して読んでみた。とにかく、村上春樹のインタビューが雑誌に乗るなんてことは滅多にないので、半ばお祭りである(笑)。

インタビュー記事を読んで、ポイントと感じたのは以下の点である。

・村上春樹がエルサレム賞受賞と受諾の問い合わせの連絡を受けたのは昨年11月下旬であり、つまりそれはイスラエルのガザ地区への攻撃が始まった12月下旬よりも一ヶ月以上遡る時期であった

・11月の時点で村上春樹は既に賞を受けるべきか辞退するべきかを非常に悩んだが、受けることに決めた。そのポイントは二つ。一つ目は、「受賞を断わるのはネガティブなメッセージですが、出向いて授賞式で話すのはポジティブなメッセージです。常にできるだけポジティブな方を選びたいというのが、僕の基本的な姿勢です」。二つ目は、エルサレム賞がエルサレム・ブックフェアから贈られる賞であって、イスラエルという国から招かれたわけではない、という点。

・イスラエルによるガザ侵攻が始まってから、受賞が発表になった1月21日まで、村上春樹に対する連絡はまったくなかった。

・村上春樹は自分が書いた受賞スピーチを事前に事務局に送付していた。その際、内容を変更するような要請があった場合には、受賞を断るつもりだったが、そのような依頼はなかった。

・授賞式にはイスラエルのペレス大統領も出席しており、スピーチ前には和やかに会話をしていたのだが、スピーチが進むにつれて最前列に座る大統領の表情が強張り、スピーチ終了後に多くの人々がスタンディング・オベーションをする中、大統領はしばらく座ったままでいた。

・一方、エルサレム市長はスピーチを賞賛していて、スピーチを終えた彼に握手を求めてきた。

・イスラエルで村上春樹の書籍はハリーポッターに次ぐ人気だと教えられ、実際町でも多くの人に握手を求められた(スピーチ前も後も)。

エルサレム賞受賞に関して村上春樹が直接的に述べているのは以上のようなところだろうか。

そして、インタビュー後半は、イスラエルとパレスチナの対立構造から対立する原理主義へと話題は移り、さらに原理主義の恐ろしさ、人間がシステムに対して魂を委譲してしまうことに対しての恐怖へと展開し、彼が取材したオウム真理教へ、さらにそこから彼が青春時代を過ごした60年代のベトナム反戦運動や学生運動へと主題が広がっていく。

そして、彼は彼が生きる時代とその日本人達へと想いを馳せる。

「でも僕らの世代の大多数は、運動に挫折したとたんわりにあっさり理想を捨て、生き方を転換して企業戦士として働き、日本経済の発展に力強く貢献した。そしてその結果、バブルを作って弾けさせ、失われた十年をもたらしました。そういう意味では日本の戦後史に対して、我々はいわば集合的な責任を負っているとも言える」

村上春樹が現在進行形の問題・出来事に対して、現在進行形で回答してくることは今まであまりなかったと思うし、それを読んでいるというのは僕にとっても何とも不思議な感じである。

先日のエルサレム賞受賞スピーチの動画がネットに掲載されたのを見た会社の後輩は、「村上春樹が生きて動いているのを初めて見ました」と言っていた。

60歳を迎えようとしている村上春樹が、自らのことを、小説に乗せずに語る時が訪れようとしているのだろうか。それはそれで楽しみだが、彼がどうやら書き終えたらしい、過去最長だという噂の長編小説が早く読みたいと思う今日この頃である。


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本書「徹底抗戦」は、ホリエモンこと堀江貴文氏が、いわゆる「ライブドア事件」について、自らの主張を綴った書き下ろし書。

誰が悪くて誰が悪くないとか、実際の金の流れがどうだったのかとかを検証することは、部外者の僕にはもちろんできない。

ただ、この本を読んだ印象として、堀江氏の主張は概ねすとんと腑に落ちてきたということ。ライブドア株が暴落した責任までをすべて堀江氏に押し付けることには違和感を感じるし、道義的責任を果たし社長を辞任するということと、刑事責任を取って有罪となることが混同されているという堀江氏の主張は非常に分かりやすいし、実際その通りだとも思う。

通常株式市場の混乱を避けるために金曜日に行われる強制捜査が月曜日に行われ、一部証券会社がライブドア株の信用担保価値をゼロにするなど、マーケットや投資家を無視し、企業価値を歪めた捜査や対応、それにマスコミの報道がされたために、ライブドア株は過剰に暴落することになったという件については、思わず溜め息が出た。実際この事件を境に、新興市場株は大幅下落へとトレンドを変え、そしてそのトレンドは今日まで変化していないのだ。

あと、同様の粉飾決算等で摘発された日興コーディアル證券の問題や石川島播磨の問題はライブドア事件よりも後に発生したにも関わらず、課徴金の納付が求められるだけで、一人も逮捕者が出ていないにも関わらず、ライブドア事件では経営陣が軒並み逮捕されている点にも違和感を感じる。

あと、堀江氏の主張に頷く点が多かったのは、ホリエモンは創業者であり大株主であるのに対して、宮内、中村といった側近達はサラリーマンであり、会社に対する思い入れにレベルの差を感じた、という点だ。この点について堀江氏の想いはシンプルにストレートに伝わってきたものの、恐らく宮内氏ら側近は、堀江氏と同じような愛着はライブドア社に感じてはいなかっただろう。

全篇を通じて、ホリエモンこと堀江氏の性格が良く現されていて分かり易いなあと感じたのだが、きっとこの人は、周囲の空気が読めない人なんだろう。人と違うことばかりして叩かれた小学校時代の記載が冒頭にあるが、人と違うこと自体はもちろん構わないのだが、人と違うということを自分が認識していなかったために、宮内氏や中村氏ら側近の造反に気付くことができなかったのではないかと感じた(もちろんホリエモンの主張が正しいという前提の文章であることを断っておく)。

「創業してからの10年間、馬車馬のように土日返上で働いてきた。交際費もほとんど使わなかった。社員にもそれを守らせた。すべては株主に報いるため。そう信じてやってきた」この一節はなかなか胸に迫るものがあった。

残念だったのは、ニッポン放送株取得やフジテレビとの問題、それに近鉄バッファローズ買収や新球団設立、それに衆院選への立候補など、一連の世間を騒がせた出来事を起こした理由があまりきちんと語られていない点だ。

会社四季報を眺めるのが趣味になり、ニッポン放送の欄を見て興味を持った、とか、フジテレビの放送画面にライブドアのURLを貼りたかっただけ、とか、撮影の合間にケータイメールをチェックしていたら小泉首相が郵政解散をして、選挙が行われることになり、急に出馬したくなった、とか、あまりにも説明がなくて腑に落ちない。

まだ裁判で係争中の案件を扱っているためという点もなくはないのだろうが、堀江貴文という人間に迫るためには、その辺りの本当の想いを、もっともっとページを割いて語って欲しかった。その点は残念だ。

マスコミによる異常なまでのバッシングにより対人恐怖症に陥ったという堀江氏の語り口は、本が終わりに近づくに従って寂し気になっていく。最高裁での上告審に負けて実刑判決が確定すれば、堀江氏は再び収監され、彼が夢に見る宇宙ビジネスを実現する日はずっと先へと遠のいてしまうのだ。

この裁判がどのように決着するのか、いまの段階ではまったく分からない。ただ、僕はこれからもホリエモンには注目し続けていきたいし、いつの日か再び大きなビジネスの檜舞台に復活し、社会に貢献しきちんと尊敬もされるビジネスマンになってもらいたいと願う。

しかしどうしてこんなにシリアスで固いテーマの本なのに、拘置所に収監中に風呂場でオナニーした話を書かなきゃならんのだ、ホリエモンよ。これだけの規模の会社を率いた社長が、オナニーについて自著の中で語ってるなんて、聞いたことないぞ。まあそこがホリエモンらしいといえばホリエモンらしいんだけどね。

徹底抗戦
徹底抗戦
著者:堀江貴文
出版社:集英社
出版日:2009-03-05
価格:¥ 1,000
ランキング:9位
おすすめ度:
在庫状況:在庫あり。
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まさか僕がこの本のレビューを書くことになるとは夢にも思わなかった。

そもそも僕はテレビをあまり見ない。今年になってからは殆ど見ていないし、去年までもごく限られた番組しか見ておらず、この本の著者、上地雄輔のことも、未だに動いているところは一度も見たことがない。

「羞恥心」のメンバーらしいということはさすがに知ってはいたが、「羞恥心」の曲もサビの部分を以前見ていた「めざましTV」で聴いて知っていたに過ぎない。

なので、今回ご縁あってこの本を貸してもらえることになった時も、正直「うーん、これは読まずにスルーすっかなあ」と思ったのだ。

が、まあせっかくなのでと読み始めたら、思ったよりも良くて、結局最後まで読んでしまった挙げ句、上地雄輔のブログをRSSリーダーに登録までしてしまった(^_^;)。

どーせお馬鹿タレント(彼がお馬鹿タレントと呼ばれているらしいということは知っていた)の人気取りで、ゴーストライターがちゃちゃっと書いた適当なモンだろうよー、と思っていたら、これが帯に「ホントに俺が書きましたっ!!」と書いてあるとおり、文章はたどたどしくぶっ壊れていながらも、なかなか彼のストレートな想いが伝わってくるのだ。

そして、お馬鹿と呼ばれる彼も、松坂大輔とバッテリーを組んだ甲子園球児であり、肩を壊したり憧れの先輩が亡くなったり師匠と慕ったコーチが急逝したりと、色々とそれなりに大変なんだなあ、と感慨に耽りつつ、とにかくやたらと前向きで元気な雰囲気が文章からビシビシ伝わってきて、こちらまで元気になってくる。

この男、ただのお馬鹿ではないな、というのは読み始めて比較的すぐ分かる。目標を設定したらそれに向かってしっかり真正面から向かって行くことの大切さ、人脈・コミュニケーションにおける積極性の肝要さなど、ビジネス書で偉い著者の人達が書いているようなことを、彼は若い時から自覚して実践してきているのだ。

巻末の言葉で非常に印象に残ったのが、「願って信じて努力しねーと叶わねーです」という一節。「願って努力する」というのはパッと思い付くが、そこに「信じる」という言葉が入るのが良いなと思った。信じる力というのはやはり偉大なんだなあと思う次第。

このエッセイが原作のテレビドラマ、「上地雄輔ひまわり物語」も3月14日に放送予定だそうです。

 

上地雄輔フォト&エッセイ『 上 地 雄 輔 物 語 』
上地雄輔フォト&エッセイ『 上 地 雄 輔 物 語 』
著者:上地 雄輔
出版社:ワニブックス
出版日:2008-07-29
ランキング:2440位
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