Book Reviewに関するエントリー

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奥野宣之氏の「情報は1冊のノートにまとめなさい」を読了。

春頃からノート術に関する本をずいぶん読んで来て、かなり経験値も上がって来たと自負していたが、本書は従来の本にない新たな切り口が幾つもあり、とても勉強になったし、すぐに実践したい部分も多かった。

まず、本のタイトルにもなっている、情報は1冊のノートにまとめなさい、という部分は、既に僕自身は導入済みだったので、新たな発見はあまりなかった。ノート自体をどのサイズで作るか、どのようにカスタマイズするかについては、自分自身の好みでやれば良いと思う。

だが、全ての情報を時系列順でノートにインプットした場合に最も問題になる、ノートの「検索」について本書はかなり突っ込んで解説していて、その部分がとても役に立った。

当然のことながら情報の検索にはコンピュータが必須となるのだが、本書では索引ファイルをテキスト形式で作成し、「日付」、「タグ(分類)」、「タイトル」を一行で入力し、それを時系列に並べ、必要なときに検索することで、必要なノートを開いて情報を得る、という方法を紹介している。

著者はスタンドアロンのPCのデスクトップにテキストファイルを置いて、それを職場のPCにもメールしたり、という方法を紹介している。もちろん「誰でも」できる方法としてはその形で良いだろう。僕の場合はEvernoteに索引ファイルを作成し、iPhoneでもMacでもWindowsでも見られるようにすると良いだろうし、Evernoteのサーバがダウンした時のことを考えると、MobileMeにもバックアップを置いておくと良いかもしれない。

いずれにしても、書き殴った情報を後から検索できるという部分が紙のノートの弱点補強としては必須なので、この部分だけでも本書を読む価値は十分すぎるほどあったと思うのだが、他にも何点か目からウロコな部分があった。

本書ではノート術の中でも、特にアイディアやネタをノートすることに重きを置いている。なかでも「ネタの芽」を「ネタ」に育てるコツを説明している部分は具体的でとても分かりやすかった。これも、索引ファイルあればこその方法で、すぐに実践してみたいと感じさせられた。

あと、入浴中にアイディアを思い付くことが多く困っていたのだが、こちらについても防水性のペンとノートが商品名で紹介されていてとても助かった。やはり皆さんお風呂はアイディアが浮かぶ宝庫なのかねえ。

さらに、アイディアが出やすい暮らし方についての記述も勉強になって良かった。この辺りは勝間和代氏の著書にも出てくるのだが、やはりインプットの量を増やし刺激の数を多くするということに尽きるようだ。多くの趣味を少しずつ齧ったり居酒屋では毎回違うメニューを頼んだり、歯医者の待ち時間では普段自分では絶対買わないような婦人雑誌を手に取るなど、多面的に刺激を受ける方法が細かく書かれていて面白い。

ノート術を初めて約4ヶ月ほど経ったが、僕の現状のノートはまだまだアイディアの宝庫にはなっていない部分が多々あることが分かった。自分自身の情報活用術を見直すのに、とても良い本だったと思う。

 

情報は1冊のノートにまとめなさい 100円でつくる万能「情報整理ノート」 (Nanaブックス)
情報は1冊のノートにまとめなさい 100円でつくる万能「情報整理ノート」 (Nanaブックス)
著者:奥野 宣之
出版社:ナナ・コーポレート・コミュニケーション
出版日:2008-03-12
価格:¥ 1,365
ランキング:2495位
おすすめ度:
在庫状況:在庫あり。
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丸谷才一氏の「笹まくら」を読了。

色んな意味で凄い小説だった。もっと早く読むべきだったし、もっと早く丸谷才一氏の「小説」と巡り会うべきだった。

今回この「笹まくら」を読むことになったのは、ちびりちびりと楽しみつつ読み続けている米原万里氏の「打ちのめされるようなすごい本」の中で、米原氏が「打ちのめされるようなすごい小説」と題してこの「笹まくら」を激賞していたからなのだが、実はそれまで僕は小説家としての丸谷才一氏には、ほとんど興味を持っていなかった。

わざわざ『小説家としての』と断りを入れたのには意味がある。僕にとって丸谷才一氏というのは、僕の青春の書の一つ、ジェイムズ・ジョイスの「ユリシーズ」の翻訳者であり、それ以上でも、それ以下でもなかったのである。

そして、「ユリシーズ」に強く惹かれ、人生で2度も翻訳を出版してしまうような人物がどんな小説を書くのかについての興味を一度も持たずに20年近く放置してきてしまったことを、この「笹まくら」を読了した今、深く恥じている次第である。本当に、もっと早く読んでおくべき小説だったし、もしこの小説を25歳までに読んでいたならば、僕自身が書いた小説も、もっと違った形のものになったかもしれない。

***

「笹まくら」の主人公は二つの名前を持ち、二人の女性と生活を共にし、そして二つの時代を生きている。物語は精密に構成され、登場人物の描き方は鋭く鮮やかで、そして舞台の設定とストーリーの展開はスリリングで激しい。

昭和40年と昭和15〜20年という二つの時代を物語は行ったり来たりする。主人公浜田庄吉はごく普通の大学職員として暮らしているが、彼には大きな秘密がある。それは、彼が第二次世界大戦中に、国による徴兵を逃れて逃亡した「徴兵忌避者」であり、その期間彼は杉浦健次という別名を持ち、砂絵師兼ラジオと時計の修理屋として、憲兵と警官から逃げるために全国を旅して暮らしていたという事実である。

現代の彼、浜田には一回り以上年齢が下の若く美しい妻陽子がいる。一方戦時中の彼、杉浦健次には年上の同棲者阿貴子がいた。医者の息子としてインテリ階級に育った浜田と場末に場を張り砂絵を描き身銭を稼ぐ香具師として底辺の生活をする杉浦。高度成長期の「現代」と破滅へと向かう大戦中の日本。物語は二つの時代と二つの名前を持つ主人公の間を緻密に行き来しつつ、高い緊張感を持って細密描写のように展開していく。

徴兵という最も厳重かつ過酷な国家の要求から見事に逃れ切り、自由を獲得したはずの浜田だが、現代における彼の生活には勢いがなく、職場は息苦しく、妻との生活にも喜びがあまり感じられない。一方で、逃亡者杉浦として生きた時代の彼は、名前や生い立ちを隠し、常に追い立てられて生きていたが、圧倒的に自由であった。

現代と戦時中、二つの時代はシームレスに連続し、複合的かつ立体的に展開する。章立てが変わることもなく、行間を空けることもなく、突如時代は25年前に遡ったり、急に現代に戻ったりする。戦時中の話は時系列に沿っておらず、遡ったり戻ったり、場所もあちこちに移っていく。僕ら読者は最初この唐突な時代と場面の変更に戸惑うことになるが、この技法が「笹まくら」を圧倒的な作品へと昇華させる一つの大きな特徴となっている。

もう一つ強調しておくべきは、丸谷氏がジョイスが多用した"Stream of Consciousness"(意識の流れ)の技法を要所で使って来ていることで、これも見事に成功を収めている。登場人物が何かを考える際に、本筋とは関係のないことを合間に考えてしまったり、途中で考えていたことの題材が変化してしまったりする。そんな人間の思考の当たり前の流れを、そのまま言葉に載せてしまうという手法だが、この手法の挿入が、小説に彩りを添えるのに、際立った効果を現している。

物語は、昭和15年晩秋に、浜田庄吉が徴兵され入営を迎える前日に、壮行会の準備をしている実家から「床屋に行く」と行って出かけ、そのまま逃亡生活へと入る場面で終わっている。物語の最後は「終わり」ではなく「始まり」になっているのだが、このエンディングの持つパワーは凄まじく、思わず鳥肌が立ってしまう。

そして読後感には、村上春樹の「ノルウェイの森」や村上龍の「コインロッカー・ベイビーズ」に似た何かを感じた。何が共通しているのだろうとしばらく考え、それは物語が前にぐっと進むところで完結し、結末を読者に預けているという手法が共通しているという点に加え、その結末が、力強くそして挑戦的であり、未来に向けて大きな一歩を記そうとする瞬間にバッサリと物語が途切れる、というエンディングが、両村上作品と共通する強い読後感を与えてくれるのだと、思い至った。

名作。

 

笹まくら (新潮文庫)
笹まくら (新潮文庫)
著者:丸谷 才一
出版社:新潮社
出版日:1974-07
ランキング:28031位
おすすめ度:
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武田百合子氏の「日日雑記」を読了。題名はひねりも何もないものだが、中身はタイトルとは裏腹にとても瑞々しく素敵なものだった。

この作品を読むまで武田百合子という作家のことは恥ずかしながらまったく知らずにおり、先日ある方から「日本人でオリジナリティという意味で一番優れているのは武田百合子」という言葉を頂き、それではということで早速読んでみた。ちなみに武田百合子氏は武田泰淳氏の妻であり、写真家の武田花氏の母親でもある。武田花氏の写真はアラーキーと合作の写真集を一度見たことがあった。

武田百合子氏は夫泰淳氏の没後に作品を発表し始めたそうだが、この日日雑記を含めて作品数が5作と少なく、寡作の人であったようだ。泰淳氏との富士山麓の山荘での日々を綴った「富士日記」が処女作で、この「日日雑記」が遺作となっている。

タイトルにある通り、まさに日々の雑記となっており、日記形式(ただし日付は書かれていない)で淡々と作者の日常が綴られていくのだが、これが実に面白い。

身の回りに、飄々としつついつも何か面白いことを考えていて、顔色一つ変えずにぼそっと面白いことを呟くようなタイプの友人がいないだろうか。この「日日雑記」を読むと、著者の文章から、そんなタイプの友人のブログを垣間見ているような錯覚に陥り、つい読みながらニヤニヤしてしまうのだ。

文章の密度が濃くしかも独特のリズム感というかグルーヴ感があり、しかも機知とユーモアに富み、そして多くの場合最後にちゃんとオチがある。著者の観察眼は鋭く、彼女の周囲にいる人々をじっくり観察し、それを面白く活き活きと活字にしてしまう。なるほどねえ、これって本当に天賦の才能なのかもしれないなあ。

娘「H」との生活、富士山の山荘での日々、友人との会話、買い物で出くわしたちょっとした出来事などが訥々と描かれているが、そこには薄い墨で掃いたように、死の影が著者を包んでいることが分かる。それは飼い猫「玉」の死であり、昭和天皇の死であり、旧知の仲だった大岡昇平氏の死であり、富士山麓で近所に住むトガワさんの死であり、そして自らの死に対する予感とそれに対する畏れである。

著者はこの本が出版された年に67歳で亡くなっているのだが、まるで自らの死を予感するかのように、日々の記述は巻末へと向かうに連れて、少しずつ寂しげに、そして悲しげに変化していくのが切ない。

そういった寂しさを振り切るかのように、最後は娘Hとの京都旅行で日々は締めくくられる。母と娘のドタバタ日常記は、いつまでもずっと続いて欲しいという余韻を残して幕を閉じている。

読後感がとても良くて、他のエッセイも是非読んでみたいと思った。そんな素敵な出会いでした。

 

日日雑記 (中公文庫)
日日雑記 (中公文庫)
著者:武田 百合子
出版社:中央公論社
出版日:1997-02
価格:¥ 620
ランキング:62085位
おすすめ度:
在庫状況:在庫あり。
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勝間和代氏の「起きていることはすべて正しい」を読了。

勝間和代氏の著作に触れるのは二作目。前回読んだ「無理なく続けられる年収10倍アップ勉強法」が良かったので、タイトルがもっとも印象的な本作を手に取ってみた。

まず本書が届いて印象的だったのが本の厚みである。350ページ以上あり、これはこの手の実用書としてはかなり分厚い部類に入るものだろう。

で、早速読んでみての感想として、まず思ったことは、これはなんというか、彼女の半自叙伝的成功体験記なのだな、ということ。良くも悪くも。350ページの厚みだけの情報量は確かにあり、価値もある。だが、それを邪魔しているものもたくさん詰まっていて、それが本書の価値を微妙なものにしている。それが僕の感想である。

もう少しノウハウ本的なものだと思って読み始めたので、そういう部分では若干肩すかしだが、成功する人間がまっしぐらに突き進んで行く過程のノウハウを惜しむことなく開示しているという意味ではいかにも勝間氏らしい大盤振る舞いで、その部分では本書に対して好感を感じた。

タイトル「起きていることはすべて正しい」というのは勝間氏の座右の銘だそうで、これは本当に魅力的なフレーズだと思うのだが、本書の内容は必ずしもこのタイトルを中核に据えて進んで行く訳ではない。では何が中核にあるかと言うと、「起きていることはすべて正しい」という言葉を座右の銘に据える『勝間和代』という人物の成功体験と、その過程で学んだこと、感じたことが、参考資料名と共にどばーっと開陳されて渦を巻いている。それがタイトルと内容のギャップとしてある。

何故彼女がこのフレーズを座右の銘とするに至ったのかということや、その言葉を座右の銘としてどのような難局を乗り切ったか、というようなエピソードは書かれていないし、「起きていることはすべて正しい」とは思えていなかった時の自分と、それを思えるようになった自分にどのような変化が起こったかというような視点での述懐も特にない。

そして、前回読んだ本のレビューでも書いたことだが、この人の行動の前提条件に対して、僕はどうしても「うん、そうだよね」と素直に頷くことができない、ちょっと躊躇してしまう部分がある。

本を書く時に彼女はその内容についての思い入れを書くより先に、販売部数についての目標をどのように設定し、それが実際にはどれぐらい売れたかという話をする。「どんな内容だったら売れるのか」をいかに徹底的に考えたかについての記述は繰り返し登場するが、「どんな本を書きたいのか」という想いはあまり登場しない。

交友関係についても、あまりにもストレートに「自分を高めてくれない相手とはそれらしい理由をつけて徐々に距離を置け」と書いてしまう。そして「自分を高められる相手」として女優の黒木瞳氏やカリスマ営業で有名な和田裕美氏らとの交友についてのエピソードが列挙されているのだが、人間が誰かを友人として好きになる時に、その判断基準は「相手が自分を高めてくれるから」と、堂々と言ってしまっていいものなのだろうか?それはすなわち、勝間氏のことを高めてくれる価値がなくなった時には、黒木瞳や和田裕美はバサバサと交友関係から切り捨てられるのが前提であると公言してしまっているのではないか?

勝間氏が「努力するなら成果が出なければ意味がない」と言うのは正論である。確かに正論ではあるのだが、人間そこまで割り切らないと成功できないのか、とちょっと切なくなってしまうのだ。すき間時間を有効活用して勉強することやチャンスをものにする心の持ち方について、彼女が本書で書いていることはすべて正しいし、見習いたい。

だが、前作で「収入が増えると幸せになります」と書いた彼女に違和感を感じたのと同じように、本作でもやはり彼女の行動規範に対する前提条件に、僕は戸惑いを感じざるを得ない。

だが、その一方で、勝間和代氏は「とても素直な人間」なのだろうとも思う。僕が「不快」や「怒り」ではなく「戸惑い」や「躊躇」という言葉を使っているのは、「利用できない友達を切り捨てろ」と言う勝間氏の言葉は、本当に成功したい人間からすれば、極めて正しい解釈なのだということを、僕自身も本音では納得しているからなのだと思う。

成長することを止めてしまった友人と愚痴話ばかりして過ごす時間は、成長を求めて上昇する努力を惜しまない人からすれば無駄な時間と感じることもあるだろうし、実際それを「無駄」と感じて疎遠になっていくケースというのもあるだろう。

だが、それを堂々と「無駄」と言い切ってしまっていいのか。その部分がどうしても僕には割り切れないし切ない。だが、勝間氏のような成功を求める人にとっては、それを「無駄」と割り切ることも、成功の一要素なのだろうし、実際この手のノウハウ本をどんどん出版して印税を稼ぐ人達同士の交友関係というのは、相手の利用価値がなくなったら関係も終了するのが当たり前なのかもしれない。

色々と考えさせられることが多い本であることは確かだし、有益な情報もたっぷり詰まっている。そういう意味では、勝間和代氏の持つエゴイズムという「毒」を一旦横にうっちゃってから、もう一度この本を読むと良いのかもしれない。勝間氏が本当に伝えたいメッセージは素晴らしいのだと思う。ただ、それを素直に出せない雑音が、ちょっと多い。

 

起きていることはすべて正しい—運を戦略的につかむ勝間式4つの技術
起きていることはすべて正しい—運を戦略的につかむ勝間式4つの技術
著者:勝間 和代
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2008-11-29
価格:¥ 1,575
ランキング:826位
おすすめ度:
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鳥海耕二氏著の「はじめてのマンション購入マニュアル」は、タイトルのとおり、マンション購入を検討するにあたり、知っておくべき事項を分かりやすくまとめたマンション購入の入門書。

マンションの購入を検討する人が踏むべきステップに沿い、資金計画、物件情報の収集、マンションの見学とその診断、周辺環境の確認方法、売買契約に関する知識と注意点という順で章立てされている。

原則見開き2ページ、長くても見開き4ページで、図表も盛り込んで非常にシンプルかつ分かりやすくマンション購入希望者が踏むべきステップと各ステップにおける注意点、見落としがちな事項などが整理され、まさに初心者が最初に読む入門書として最適であろう。

ローンの金利や返済年数などに関する基本知識から、マンション周辺の「墓」や「どぶ川」など要注意な施設や環境に関するチェック方法など、きめ細かく指南されている。

この本一冊だけですべての事前情報を網羅することはできないが、右も左も分からない状態から、まず最初の情報を仕入れたいという方にはぴったりなのではないだろうか。

 

はじめてのマンション購入マニュアル
はじめてのマンション購入マニュアル
著者:鳥海 耕二
出版社:ぱる出版
出版日:2006-10
価格:¥ 1,575
ランキング:194412位
在庫状況:在庫あり。
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「ウェブはバカと暇人のもの」は、ニュースサイト編集者や広告代理店のPR業務を担当していた著者中川淳一郎氏が、日本のネットを取り巻く現状を独自の視点で分析した書。

痛快な本だ。日本のネットヘビーユーザーの気持ち悪さ、そしてそれに起因する日本におけるネット全体の気持ち悪さを不躾な言葉でずんずんと土足で踏み込みながら分析しで行くのだが、そこにはまさに膝を叩きたくなるような事柄が幾つも含まれている。

まず扇情的な「ウェブはバカと暇人のもの」というタイトルからしてかなりイカしている。これは著者が、ネットニュース編集者当時にネットユーザーを惹き付ける見出し語作りの腕を磨いた結果得た能力から生まれたものだろう。

そして内容についてもなかなか小気味よい。「ウェブ進化論」などで盛んに唱えられるネット万能論に対し、読者からのコメントを受け付けるニュースサイト編集者だった「ウェブ小作農」を自認する著者が現場で感じる違和感を、「バカ」という強い言葉を使って明快に説明してくれている。

要はウェブのヘビーユーザーであり、芸能人ブログを炎上させたり盛んにニュースサイトにコメントしたりしている人達というのはバカか暇人であり、そういう行動を取っている人達を相手にするのは運営者としては時間の無駄で、何も始まらないと著者は説く。

現実世界では大人しく生きている人間が、バーチャルの世界になった途端に自分のことでもないのに、芸能人や企業の行動にいちいち難くせをつけ、正義漢ぶった行動を取る。そこには自分の発言が通るという恍惚感と支配欲、そして圧倒的な「暇」な時間という存在が必須で、彼らが書き込む「苦情」「クレーム」などは、時として真面目な運営者を苦しめ困らせ、場合によってはブログの閉鎖や担当者の退社などという結果を生む場合もある。

だが、そういう行動を取っているのは、「バカと暇人」なのだと割り切り、受け流せと著者は説いている。

「リア充」という言葉すら僕は知らなかった(現実(リアル)世界での人生が充実している人という意味らしい)が、リア充は芸能人の発言なんかいちいち気にしていられず、企業に難くせをつけるまえにその会社の製品を買うのを止め、別の製品を買うだけだ。

そして製品を買ってもらいたい企業のマーケ担当者や広告代理店も、ウェブに対して持っている誇大な幻想を捨てよと説く。日本人は未だにテレビが大好きで、テレビで見たネタをせっせとウェブに書き込み共有しているに過ぎない。納豆ダイエットやバナナダイエットなども、結局はテレビ番組で発信されたネタがネットで増幅され、結果としてセンセーショナルな動きとなったに過ぎない。

ウェブやネットによって情報量が圧倒的に増えたとしても、検索するツールがGoogleとYahoo!だけで、検索するキーワードが「納豆ダイエット」や「バナナダイエット」であれば、検索結果に表示されるサイトは全国津々浦々同じものであり、結果、ネットにより国民の行動は多様にはならず、均質になってしまった。

結局著者が強調しているのは、ウェブというのは夢のツールではなく、「頭が良い人」が使うと凄く便利だし画期的なことも起こるが、「普通の人」や「バカ」が使ったからといって、夢のようなことは起こるはずもなく、寧ろ匿名性故のトラブルが起こり面倒くさくなっているだけだ、ということなのだが、これは本当にその通りだと思う。

ウェブは便利に使えばとても素晴らしいツールだが、自分自身の実力以上の何かをもたらす宝くじみたいなものではない。

読んでいる間、一貫して「バカと暇人」というキーワードで解ける謎が多く、読みながらやたらとニヤニヤしてしまった(笑)。

とにもかくにも、ウェブという有効なツールを駆使して便利に使って行く。そして人に迷惑を掛けない。マナーを守り他人には礼儀正しく接し、気が合う仲間とは積極的に交流していく。なんてことを考えていると、ウェブ上での行動も現実での行動も何一つ違う部分はないのだ。

そんな当たり前のことを再発見させてくれた本書に感謝したいと思った。

 

ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)
ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)
著者:中川淳一郎
出版社:光文社
出版日:2009-04-17
価格:¥ 798
ランキング:185位
おすすめ度:
在庫状況:在庫あり。
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「「儲かる会社」の朝の習慣」は、リフォーム会社を経営する著者小西正行が、自らの経験と実践をもとに元気で利益の出る企業におけるコミュニケーション法と部下育成法について語るノウハウ本。

ちょっと極端な本なので正直最初は「引いて」しまったが、著者の熱い語り口の文章を読み続けて行くと、徐々にそれもアリかもなあと思わせる、そんな説得力を感じさせてくれるのではあるが。。。

何がどう極端かと言うと、著者が説く体育会的熱血企業というのが、どうにも僕には馴染みがなく、小恥ずかしいしちょっと抵抗もある。

たとえば、小西氏は毎朝出勤してきた社員を握手で出迎えるという。朝出勤してきた社員は前の日に嫌なことがあったり疲れていたりすると十分な心の準備が出来ておらず、後ろ向きな気持ちで出てくる場合もある。それを笑顔とともに握手をして社員を迎えることで、社員の気持ちがリセットされるというのだ。

あと、「バリデーション・サークル」というものも紹介されている。これは社員同士がお互いに「あなたに会えて、一緒に仕事ができて良かった」と告白し合う儀式だ。「言わなくても分かってるだろう」という常識を取り払い、相手を認める告白をすることで、お互いが相手を受け入れる土壌が出来て、一丸力が育成されるというのだ。

まあ確かに朝に社長が笑顔で社員を出迎えて、一人ひとり握手してくれれば、やる気は出るかも知れない。部下が上司に向かって、「あなたの部下で良かった」と面と向かって言われれば上司は感激するだろう。

でも、なんだかとってもむず痒くて照れ臭く、そしてそれと同時に何やら不気味な感じもしてしまうのは何故だろう。しばらく考えて思い至ったのは、このコミュニケーションの濃密さが不自然だからなのだろう。

会社で部下が上司に「あなたの部下になれて本当に良かった」と告白するシーンというのは、少なくとも僕にとってはとても非日常的な光景だし、どうにも居心地が悪い。

もちろんそういう居心地の悪さは不慣れであるが故のもので、一度お互いの距離を近づけてしまえばあとはとっても良好な人間関係になるのかもしれない。

頭では分かるのだが、でも何だかとっても不気味で、そして抵抗があるのも事実。

ただ、数年前までの自分であれば、この濃密な世界観を見せられた瞬間に拒絶感に満たされて本を読むのを止めてしまったと思うが、今回は「この抵抗感を乗り越えた向こうにある世界ってのもアリかもなあ」と思ったことは、僕にとっての成長だと思う。この世界観を自分が部下に対して実践したいと思うかどうかは別として。

まあそんな感じで、こうしてレビューを書きつつも、評価がポジティブな方にふらふら行ったりネガティブな方に針が振れたりと定まらない。でもまあとにかくインパクトがある本だし著者が言いたいことも首尾一貫していて分かりやすい。問題はこの世界観に乗るか反るか、ってことなんだろう、結局は。

 

 

「儲かる会社」の朝の習慣
「儲かる会社」の朝の習慣
著者:小西 正行
出版社:中経出版
出版日:2008-11-15
ランキング:20725位
おすすめ度:
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村上春樹の最新長編小説「1Q84」のBook2を読了。Book1のレビューはこちらに。

読み終えるのが惜しくて、出来る限りゆっくり読み進めていた村上春樹の「1Q84」だが、ついに読み終えてしまった。まさに「読み終えてしまった」という表現がぴったりで、魅力的な登場人物たちに囲まれ、スピード感溢れ複合的に入り組んだ物語の舞台に満たされ、いつまでも読み続けていたかった。それだけ力のある、そして僕の心と身体の根幹を震わせる、そんな物語だった。

読み終えたのが午後6時過ぎで、今が8時45分だ。まだ2時間半ほどしか経っていない。僕の頭はまだ整理がついておらず、ふわふわとした感情や思考の断片のようなものがそこかしこに浮かんでいて、ハッキリとした形を形成できていない。

明日か明後日まで待って、もう少し頭が整理され、僕と作品との間にしかるべき距離感が生まれ、想いが落ち着いてからレビューを書くべきなのかもしれない。今レビューを書いても、まとまりがない、バラバラの、ただの感情の吐露になってしまうかもしれない。だが、それでもやはり、敢えていま書いてみる。未成熟だとしても、読了直後にしか書けないこともきっとあるだろうし、今書くことに意義があると思う。

ではBook2の話。Book1で感じた高揚感とある種の予感を胸に抱いたままBook2を開いた訳だが、読了した今もその高揚感とある種の予感は変わらず僕を包んでいる。「1Q84」が、従来の僕にとっての村上春樹の最高傑作「ねじまき鳥クロニクル」を超えるNo.1作品になるだろうという期待に対する高揚感であり、そして、読了後に自分が抱くであろう感情を、僕はきっと理路整然と言葉で表現することはできないだろうという、こちらはある種絶望的な予感であった。そしてその両方が、そのまま現実となった。

そしてもうひとつ作品読了後に強く感じた読者のわがままとして、やはりもっと物語が続いて欲しかった。それは本作が物足りないのではない。物語が尻切れで終わっているわけではなく、読後感に物足りなさがあるのでもない。ただ、この作品の持つ強く繊細な世界観が心地良く、登場人物も文体も質感も魅力的であるが故に、もっと世界を膨らませ、物語を入り組ませ、息を飲むような疾走感を加速させ、爆発的なクライマックスを迎えてもらいたかった。

あと、何人かの主要ではない役回りの人達が、理由が明かされないまま、すっと姿を消して行ってしまうのが切ない。

ふかえりの保護者であり「さきがけ」リーダー深田の親友でもあった戎野先生はどこに消えた?天吾にリライトを持ちかけた小松の消息はどうなったのか。青豆と一時期チームを組んだあゆみをラブホテルのベッドに手錠で縛り付けて殺害した男は誰だったのか。天吾の年上の不倫相手に一体何が起こったのか。

多くの事象は謎のまま僕ら読者の手に置き去りにされてしまった。だがこれは作者が稚拙だったのではもちろんない。そんなことはもちろん分かっている。分かっているが、どうにも切ないのだ。彼らのためにも、もっと深い物語を与えてやって欲しかった。もう一度ストーリー上に登場させて欲しかった。

でもそんなことは些細な読者のこだわりなのだろう。重要なことはこの物語のメインテーマなんだと感じている。「ねじまき鳥クロニクル」はダークでハードで、そして壮絶なラブストーリーだった。そして「1Q84」もまた「愛」の物語である。ねじまき鳥よりもさらに昇華され高い次元へと上った、悠久の愛の物語、そう感じた。「愛」をテーマにここまで深く物語を作り込める人は他にはいないのではないか。少なくとも僕は圧倒された。

そして最後に。Book1を読み終えて僕はこの作品が「コインロッカーベイビーズ」に何か似ていると書いた。Book2を読み終えた今も、その気持ちは変わらない。コインロッカーベイビーズのキク、ハシ、アネモネは、この1Q84の青豆、天吾、ふかえりにどこか重なってくる印象がある。それは同じ宿命を背負いつつ異なる人生を生きる「同士」が奏でる「戦士の歌」が聴こえるという共通項があるからではないか。

そんなことを、いま、考えている。

また落ち着いた頃にでも、何か思うことがあれば書いてみたいと思う。

 

 

1Q84 BOOK 2
1Q84 BOOK 2
著者:村上春樹
出版社:新潮社
出版日:2009-05-29
価格:¥ 1,890
ランキング:2位
おすすめ度:
在庫状況:通常2〜5週間以内に発送
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昨日Book1を読み終えたばかりの村上春樹の最新長編小説"1Q84"だが、既にBook2を読み終えた会社の後輩が言うには、「あれってあのまま終わりとは思えないんですよ」とのこと。「まだ続きがあるんじゃないか」だと!

そういえば、1Q84の事前情報では、「今までのどの小説よりも長い」とのことだったのだが、Book1とBook2を足しても明らかに「ねじまき鳥クロニクル」よりも短い。それに、昨日も書いたとおり、Book1が終わった時点で、物語はまだ始まったばかりという印象だ。

これはどうも、Book3以降がありそうな予感。というか希望的観測か(笑)。今回の作品の世界観がとても好きなので、ずっと読み続けられる幸せを噛み締められそうでなんだか嬉しい。

というわけでまずはBook2をじっくり読みつつ、今後の情報を待とう。

 

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先週発売されたばかりの村上春樹の最新長編小説「1Q84」の上巻にあたる「Book 1」を読了。

あらすじを書くつもりはないが、少なからず小説の内容についての記述をするので、まだ「1Q84」を読んでいない人には「ネタばれ」になってしまう部分があると思うのでご注意を。

というわけで、待望の村上春樹の新作長編ということで、2月ぐらいから予約して発売日当日に入手し、ようやく上巻を読み終えた。

まず一言目の感想としては、「すっごく良い」ということ。僕にとって今までの村上春樹の小説におけるNo.1は「ねじまき鳥クロニクル」だったのだが、この「1Q84」は、ひょっとして僕にとっての村上春樹No.1の座を奪取するかもしれない。そんな気持ちにさせてくれる前半戦である。

でも実は、この「1Q84」については、読み始めるまでは、あまり期待をしていなかったのだ。

何故かというと、僕にとっては「ねじまき鳥」以降の村上春樹の作品は、いつも何か消化不良気味で、ちょっと物足りなく、どこか歯がゆい作品が続いていたからだ。

僕とってのNo.1が「ねじまき鳥クロニクル」であることは既に触れたが、No.2は「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」であり、No.3は「ダンス・ダンス・ダンス」であり、同率No.3は「ノルウェイの森」なのだ。つまり、どれも「ねじまき鳥」より前の作品ばかりということになる。

「ねじまき鳥」はハードでダークな作品だが、そのメインテーマとして流れ続ける「愛」と「信念」に僕は圧倒された。初回読んだ時はあまりにもテーマが暗喩的に語られているために訳が分からず、なんてひどい小説だと思ったのだが、そんなはずはないと思って直後に再読し、その素晴らしさに圧倒されてしまった。

だが、すでに「ねじまき鳥」を読み終わった直後から、僕の中に、「もうこれ以上の小説は彼には書けないのではないか」、「村上春樹は『ねじまき鳥クロニクルとともに燃え尽きてしまったのではないか』という不安がこみ上げてきた。

そして「ねじまき鳥」の後に発表された「スプートニクの恋人」や「神の子どもたちはみな踊る」、「アフターダーク」、そして「海辺のカフカ」は、「彼はもうダメなのではないか」という僕の不安を蹴散らしてくれるほどのパワーは持っていなかった。少なくとも僕にとっては。

そんな経緯があったため、発売日前の予約はもうここ数年来のお約束なので入れておいたものの、それほど期待はせずに読み始めたのだが、最初の数十ページでもうすっかり引き込まれてしまった。

とにかく登場するキャラクターが皆魅力的であり、状況設定が抜群である。エッジが効いている人物とビビッドな状況の描写、そして今までの村上春樹の人生を総括するかのようなエッセンスの挿入方法。まさに彼が目指す「総合小説」が、完成のレベルに至りつつあるのではないかと感じさせる充実ぶりだ。

それともう一点強調しておきたいのは、この作品の「質感」だ。従来の村上春樹の作品には、良くも悪くも「つるり」とした清潔感と、その裏腹に、どこかリアルさに欠ける空虚さが同居していたのだが、この「1Q84」は、文体と空気感ともに、「ざらり」とした手応えと威嚇するような迫力を併せ持っていて、読んでいて心がざわざわと波打ってくるような感覚を得る。この感じは村上龍の「コインロッカー・ベイビーズ」を読んでいる時の感覚にちょっとだけ似ている。

この感じは実に得難い衝動で、読者がこの感覚を抱くような導きを、意識的に出し入れできてしまった村上春樹は、ついに違う地平に立ってしまったのではないだろうか。

前半戦を終えて、物語はまだ始まったばかりという印象である。「1Q84」で展開される二つの物語は「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」のように結びつきつつ、山梨のカルト教団はまるで「アンダーグラウンド」や「約束された場所で」の世界観を思い出させ、虐待された女性達が逃げ込むセーフ・ハウスは「ノルウェイの森」で直子が暮らした京都の施設のようであり、年上の彼女との逢瀬は「国境の南太陽の西」のクライマックスを思い出させつつ、ヒロイン「ふかえり」は「ダンス・ダンス・ダンス」の「ユキ」のようでもあり「ねじまき鳥クロニクル」の「笠原メイ」のようでもあり、そして小説を紡ぐ「天吾」はあの「鼠」の生まれ変わりのようである。

二つの月が煌めく6月の夜。1Q84の謎は僕をどこへと導いていくのか。

とても楽しみだ。

 

1Q84(1)
1Q84(1)
著者:村上春樹
出版社:新潮社
出版日:2009-05-29
価格:¥ 1,890
ランキング:1位
おすすめ度:
Amazon.co.jp で詳細を見る

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