Book Reviewに関するエントリー

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今更読んでる課長 島耕作、第3巻を読了。

この第3巻のカバーに、著者のコメントが記載されているのだが、面白いことが書いてあった。連載開始当初は島耕作は、仕事も浮気もそこそこにやり、出世と保身に窮々としているキャラだったのが、連載開始後にどんどん変質した、という内容だ。

なるほど、これが僕が第1巻で感じた違和感だったのだな。

1年間のアメリカ勤務を終えて帰国した島耕作だが、妻は子供を連れ、離婚を前提とした別居を宣言し、家を出てしまう。また、上役の部長が海外赴任となった間の代理役の次長とトラブルを起こして睨まれ仕事を干される島に、ヘッドハンターと名乗る男が近づいてくるが、それは次長が仕掛けた罠だった。

次長が仕掛けた罠を逆に次長を左遷させることで乗り切った島は、渡米中の部長に依頼され急遽ラスベガスへと飛び、そこでさらに様々なトラブルに巻き込まれていく。

ストーリーがどんどんリアルに奥深いものになっていき、そこに登場する人物たちの描写も活き活きとして素晴らしい。やたらと海外に飛び、カジノにチャレンジしたり、金髪美女と深い仲になったりと、相変わらず八面六臂の大活躍だが、それが当時の日本人の持っていたバイタリティーとして上手く描かれているように思う。

役員陣との接触も増え、いよいよ重要人物となりつつある島耕作の、今後に注目だ。

 

課長島耕作(vol.03)新装版

 

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今更読んでる課長島耕作。第2巻を読了。

舞台はアメリカ・ニューヨークへと移っている。第1巻で感じた違和感は、舞台がニューヨークに移ったことにより解消された。

また、ブロードウェイに日本メーカーの初芝が巨大なネオンサインを出すという企画と、そのネオンサイン設置の担当者水口が自分の恋人だと思い込んでいる女に乗せられてミュージカルに出資するために会社の金を使い込むなど、設定が徐々にバブルらしさを帯び、熱を孕み始めている。

また、初芝の役員陣の派閥争い、日本に残してきた妻からの離婚の申し入れ、ニューヨークで知り合った恋人アイリーン、そして彼女の元々の恋人ボブとの親密な三角関係とアイリーンの妊娠など、物語は登場人物と舞台装置が整い、いよいよ本格的な長編作品へと向かう滑走路へと向かった感がある。

ニューヨークという場所柄のせいもあるだろうが、あの頃の日本企業が持っていた希望と熱気がブロードウェイという舞台でリアルに花開き、読んでいてどんどん引き込まれていった。

なるほど、これは面白くなってきた。今後の展開が楽しみだ。

しかしこんなに元気だった頃の日本は、もう戻ってこないのだろうか。たった20年前のことなのに、本当に幻のようだ。

 

課長島耕作。第2巻

 

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金森重樹氏著、「借金の底なし沼で知った お金の味」を読了。

なんとも挑発的なタイトルで、読み始めるまでどんな話かと思っていたが、なかなかリアリティーがあり、教訓と示唆に満ちた良い本だった。

衣類の一括販売の強引な契約を結ばせられたり、パチンコにはまったりする学生時代の著者は確かに無計画で弱いし、仕組みも契約額も確認せずに先物取引の営業マンの強引な手口に嵌って親から預かった金を使い果たし、挙げ句の果てに高利の借金漬けになってしまったという経緯も、お粗末といえばお粗末だ。

だが、もし自分が著者と同じ年齢と立場だったら、もっと上手く立ち回れただろうかと考えると、うまく処理できた可能性は極めて低かっただろう、と答えるしかない。

そして5,000万円以上の借金を背負い、月収が30万円なのに返済金利だけでも月額39万円という、途方もない状況に陥った著者が打った起死回生の一撃、それはさらなる借金をして、事業を興し、お金に働かせる環境を作ることだった。

今でこそ著者が言う「お金に働かせる」という言葉の意味は分かる。この言葉は「金持ち父さん」シリーズにもさんざん出てくるし、近年この言葉はずいぶん市民権を得てきているだろう。

だが、5,000万円以上の借金を負っている時点でそのことを考えつけるというのは、やはり凄いことだと感心させられる。

本書はあくまでも著者自身の転落と復活の半生を綴ったものであり、普遍的にそのまま活用できるように書かれたノウハウ本ではない。だが、本書に書かれているメッセージは、著者が地獄のような苦しみの中で学んだ事柄であるため、言葉に重みがあり、迫力がある。

「消費のための借金とお金を作り出す道具としての借金はまったく別物」「お金を作り出すために借りたお金は、1円たりとも消費のために使ってはいけない」この言葉が重く響いた。

それにしても、著者のアルバイト先の資産家と、その資産家とグルになって著者を先物取引の世界に引っ張り込んだ営業担当というのはひどい人間だ。もちろん著者がきちんと自力で判断できなかったことも問題だが、20代前半のフリーターの若者に、年利12%、遅延損害金12%などというとんでもない高利で5,000万円もの大金を、無担保で貸すなんて、非常識だしひどすぎる。

このような手段を使って金儲けをするような人間にはなりたくないと、心から思う。もちろん騙されるのも嫌だけど。

 

借金の底なし沼で知った お金の味

 

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あまりにも有名な漫画「課長 島耕作」をようやく読み始めた。連載開始が1983年だそうなので、実に26年遅れ、単行本発行から見ても24年遅れである。

25年も存在を知りつつ読まずに済ませていた本に、何故今更興味を持ったかといえば、一昨年映画「バブルへGO!」を見て以来、それまで封印していた、「僕にとってバブルとはなんだったのか、バブルは僕の人生にどんな影響を与えたか」について追求したいという強い欲求が生まれ、あれこれと本を読む過程で、この「課長島耕作」も、連載時期がまさにバブルと重なっており、日本バブル経済の証人として、読んでおくべきだろうと感じたからだ。

理由はそれだけではない、島耕作シリーズが、ついに「社長」にまでのぼりつめたということを知り、大局的に結末を迎えつつあるこのシリーズを、最初から読んでみたいという気持ちが湧いたということもある。

連載がスタートした時の島耕作は34歳で課長であり、そして当時の僕は13歳だった。そしていま僕は40歳・シニア・マネージャーとしてこの本を手に取ることになった。なんだか感慨深い。

というわけで前置きが長くなったが、課長島耕作の第1巻を読了した。

まず最初に感じたことは、予想外に仕事以外の、いわば女との絡みやセックスシーンが多く、あまり企業戦士的な側面は描かれおらず、従ってバブルを象徴する「日本のサラリーマン」という姿がそれほど浮かび上がっていないということだ。これは正直意外だし、残念にも感じた。これは僕の思い込みが強かったというだけのことなのだが。

特にセックスシーンの多さには少々面食らったというのが正直な感想。成年男性向けの雑誌連載漫画なので女の裸が必要なのかもしれないが、あまりに都合良く次々と女性と交わる主人公には,あまりリアリティーを感じないし、物語のキーが何でもかんでもセックスというのはどうもいただけない感じがしてしまう。

ただ、連載開始は1983年であり、それはつまりバブルを生む大きなきっかけとなった、1985年の「プラザ合意」よりも2年も前のことであり、当時の日本は後のバブルへの緩やかな階段を上りつつある時期だと思うので、当時の大企業にも、まだバブル的な素養はあまりみられなかったのかも知れないし、当時は今ほど漫画にリアリティーが求められていた時代ではなく、この程度のファンタジーっぽい仕上がりの方が受けたのかもしれない。

あと、読んでいて時代を感じるのが、タバコの位置付けである。島耕作はじめ登場人物はオフィスの自分の席で、会議室で、レストランで、電車待ちのホームで、飛行機の中でさえ、とにかくタバコを吸いまくっている。そういえば、当時は地下鉄のホームでさえもタバコが吸えたのだ。時代は変化する。

というわけで余計なことばかりが気になってしまっているが、島耕作は物語の冒頭で課長承認を告げられ、3ヶ月後に無事課長に就任した。そしてとある社内の背任および詐欺事件を解決した中核人物としての働きが評価され、出世の王道コースといえるアメリカ勤務を言い渡される。渡米を拒否した妻(と娘)を東京に残してニューヨークに渡ったところまでが第一巻のお話。

戸惑いつつも今後の展開が楽しみだ。そんな物語の始まり。

 

課長島耕作(vol.01)新装版

 

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嬉しい嬉しいニュースが飛び込んできました。

堀内さんのブログで知ったのですが、毎日jpによると、村上春樹は「1Q84」のBook 3を執筆中で、来年初夏には発売したいとのことです!

ねじまき鳥クロニクル」の時も第3部までに時間が空きましたし、今回のBook 2のエンディングでは物語の伏線などが全然解決していないままだったので、Book 3以降が絶対あるだろうとは思っていましたが、これで安心しました。

堀内さんも書かれていますが、僕も、1Q84はBook 4まであると睨んでいます。Book 1が「4月〜6月」、Book 2が「7月〜9月」と来ていますから、Book 3が「10月〜12月」ときて、Book 4が「1月〜3月」となるのではないでしょうか。だとすると、まだまた物語りは入口ってことになりますね。

青豆と天吾、それにふかえりにまた会えますよ。ああ楽しみだー楽しみだー。早く読みたい、早く読みたい!

ああ、嬉しすぎて鳥肌が立ってしまいました。来年が楽しみです(^-^)/

1Q84 book 1(4月ー6月)

 

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先日購入したiPhoneアプリ、iMandalArtiMandalArt。斬新なUIと軽快な操作感もさることながら、従来にない9マスを深く深く掘っていく感じが斬新的な思考育成支援アプリだ。

iMandalArtについては、過去に3つのエントリーを書いているので、参考にしてもらいたい。

あなたの中に眠る思考を開放せよ!iMandalArt、こいつは凄い!(第一回)

iMandalArtを一日いじって見えてきたもの(第二回)

iMandalArt3日目、とりあえず現段階でのまとめ(第三回)

というわけで非常に魅惑的なiMandalArt、我流でガンガン使っているものの、「本当にこれで良いのだろうか」という思いもあり、きちんとしたテキストを読んでみたいと感じていたのだが、探してみたところ、何冊かのテキストが見つかった。

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その中から、まずは最初に目についた、松村寧雄氏著、「マンダラ思考で夢は必ずかなう!「9マス発想」で計画するマンダラ手帳術」を読んでみた。

ちなみに本書の著者松村寧雄氏は、マンダラチャートの開発者である。iMandalArtは、マンダラチャートをアプリ化した商品なので、この松村氏がiMandalArtの生みの親と言っても過言ではないだろう。そう考えると凄い!

というわけで期待しつつ読んでみた。そして期待通り、マンダラチャートの本来的な使い方や利点などを俯瞰的に理解することができて非常に勉強になったし、面白かった。

そもそも何故自分がiManralArtにはまるのか、という点について考えられたことからして面白かった。通常の手帳などでの目標管理では、単一の目標に直線的に向かっていってしまい、他の目標とのバランスが悪くなるのだが、マンダラチャートは必要な構成要素を同一画面に表示したうえで中核に目標を置くことで、目標達成に必要な構成要素をバランス良く見ることができるということに気づかされた。

本書では、人生全体の目標を一番上位のチャートとして持ち、その下位に年次、月次、週次、日次のチャートを持つよう説いている。これも人生全体を文章として俯瞰するうえで有効であろうと感じた。目標設定などの方法論についての記述はあまりないが、そのあたりは吉越浩一郎氏や渡邊美樹氏などの著書を参考にすると良いのではないだろうか。

もちろん個別のテーマに関してのチャートを作ることも可能だし、それも良いことだと思う。だが、個別のテーマが自分の人生のどの位置に配置されるべきものかを理解してスタートすれば、そのテーマに対する意気込みも違ってくるし、テーマの期限の設定や優先順位付けなども容易になるだろう。

豊富な図解とサンプルが含まれていてわかりやすい。本書ではアプリではなく紙の手帳を使っているが、この本の記述をサンプルにしつつ、iMandalArtで人生設計してみようと感じた。

松村氏は他にもマンダラチャート本を複数書いているので、順番に読みつつ深めていきたい。

iMandalArtのダウンロードはこちらから(1,500円)iMandalArt

 

マンダラ思考で夢は必ずかなう! 「9マス発想」で計画するマンダラ手帳術

 

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野村克也氏の「あぁ、監督 ー 名将、奇将、珍将」を読了。

野村克也氏といえば、現楽天イーグルス監督であり、過去南海ホークス、ヤクルトスワローズ、阪神タイガースで監督を勤め、弱小チームを優勝に導き、他球団を解雇された選手を復活させ「野村再生工場」と呼ばれ、また彼のデータ重視野球は「野村ID野球」と評されるなど、日本プロ野球界でも屈指の名将の一人である。

野村氏は「野村ノート」や「野村再生工場」など、数多くの本を執筆してきており、それらの本は野球理論や野球におけるマネジメント論であると同時に、ビジネスマンにも有益で示唆に富んだマネジメント論となっており、僕も過去に何冊か読んできている。

本書は野村氏の最新刊であり、監督に必要な素質や能力、またあるべき姿などの解説から始まり、歴代の名監督とその素晴らしい点や、著名ではあったが監督としては大成できなかった人物が何故失敗したのか、また、昨年の北京オリンピックで日本チームは何故敗北したかなどを、論理的かつ情熱的に分析していく。

野村氏は究極の名将を、元巨人軍監督の川上哲治氏だと述べ、その最大の理由として、勝ち続けるだけでなく、数多くの後継者を野球界に輩出した点を挙げている。王、長島、藤田、堀内、高田、土井、森、広岡など、川上巨人軍時代の選手は、その後巨人または他球団の監督となった人物が非常に多い。

僕自身、川上氏が監督だった時代の巨人というのは知らなくて、物心ついた頃は第一期長島時代だったので、川上野球がどのようなものだったかは分からないのだが、森監督時代の西武に近い野球と聞いて、なるほどと納得した。

また、最近の野球がつまらなくなっている理由として、川上氏や森氏のような、考えに考え抜く野球人がいなくなってしまったと野村氏は嘆くが、これはまさに日本人皆が感じていることではないだろうか。本書で野村氏が、ヤクルト時代に森監督率いる西武ライオンズと2年連続で日本シリーズを戦った時期が、もっとも燃えていたと振り返っているが、本当にあの日本シリーズは凄かったと、今思い出しても心が熱くなる。

野村氏が現役でいる間に、川上氏のように、有能な後継者をどんどん育成し、次の時代のプロ野球を盛り立ててほしいと、切に願う。

 

あぁ、監督 ー 名将、奇将、珍将

 

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樋口健夫氏著、「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」を読了。

「アイデアマラソン」とは、毎日企画のネタになるようなアイディアをノートに書き込み続けることで、自らの企画ネタをどんどん増やし、その中から光り輝く名企画を掘り出そう、という試み。毎日コツコツと繰り返し、やり続けるから「マラソン」なのだろう。

樋口氏の著書「できる人のノート術」を以前読み、その際に自分の中で消化し切れなかったように感じた部分を補強したくて本書を手に取ってみた。

結果、とても良い感じで自分の中にすとんと落ちた。樋口氏が言わんとしていることも理解できたように思うし、他の人達が書いたアイディアノート物の中でも自分が消化できていなかった部分が少し分かるようになってきたように思う。

マンダラートについて勉強する機会を得たこともあり、最近「アイディア」や「企画」をいかに効率良く育てるか、ということに強く興味を持っているのだが、本書を読んで、やはり良いアイディア、素晴らしい企画を出すためには、圧倒的な量の「ネタ」が必要だということを認識した。

本書では、企画名人の先輩社員と企画が思い付かずに苦しむ後輩社員の寸劇的な会話で各賞が始まり、その後に具体的ステップを踏んで企画を出し続けるためにするべきことや注意すべき点などが網羅されている。

とにかくネタを出し続けること、そしてそのネタを忘れないうちに記録すること、それを毎日毎日ひたすらやりつづけ、分母数を圧倒的に多くすること、結局本書が訴えているのはその点に尽きる。記録する方法や便利なグッズの紹介などはあくまでも補足的な情報であり、他にも良い本があるように思うが、とにかくネタを出しまくり、それをグループ化してまとめ、その中から光り輝く素材を掘り出し、企画へと昇華させるプロセスが大切なのだと、改めて認識させられた点は大きい。

実際の仕事で役立つ企画を考えるヘルプも記載されていて親切である。仕事に限らず、自分の人生や趣味、家庭に関するアイディアも、まったく同じプロセスでどんどん生み出して行くことができる。そんな気持ちにさせられた。あとは実戦あるのみ。

 

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村山由佳の「ダブル・ファンタジー」を読了。

著者のことを僕はまったく知らず、ひょんなきっかけでこの本を知り、ずいぶん人気があるようだから、ちょっと読んでみてもいいか、ぐらいの軽い思いで手に取った。

だが、この本はそんな軽い気持ちで手に取るべき作品ではなかったということを、読み始めて30分ほどで思い知らされる。だが読まずにはいられない。とにかくグイグイと活字に目が貼り付いてしまい、500ページの大作をあっという間に読み終えてしまった。中央公論文芸賞受賞作品。甘く見てはいけなかった。

とにかく強い作品だ。タイトルはジョン・レノンの遺作となったアルバム「ダブル・ファンタジー」から取られており、作中にも主人公がアルバムを聴くシーンが出てくるが、「ファンタジー」という言葉とは対極にある作品と言っても良いのではないかと感じた。

事前評判にもあったのだが、本作にはセックスシーンが多く盛り込まれており、しかも主人公が次々と異なる相手と肌を合わせていくという展開からも、「官能小説」「エロ」という印象が前に出がちだろうということは否定しない。

だが、読み終えた後に浮かび上がってくる世界観は決して官能やエロといった単純なものではない。

女性の社会的な立場の弱さや、その弱さを受け入れて生きてきてしまった女性のもどかしさと諦観、そして男性の愚鈍さと、その愚鈍さを指摘されずに生きてきてしまった男性の無能さ、野卑さ、救いのなさ、そしてそれをとりまく、30代以上の男女が抱える閉塞感、加齢に伴う絶望と、それに抗したいと考える人々の想いなどがシャッフルされ読者の喉元に鋭利な刃物を突き付けるように迫ってくる。

本編におけるセックスシーンは、主人公奈津が支配的な夫の呪縛を逃れ、脚本家としても人間としても自立した存在としての人生を獲得して行く過程で、彼女の心と言動の変化を立証するために、どうしてもなくてはならないバックボーンとして機能しているとともに、それでもなお人間には男と女しか存在せず、互いが互いを求め合うのは圧倒的な本能であることを暗示することによって、人間が持つ根源的な欲求と問題点を同時に僕ら読者に提示している。

本書を手に取る者は、男も女も覚悟をしてから読み始めるべきだ。男は、自らがパートナーや恋人と行ってきたセックスが、いかに未熟で独りよがりであったかという事実に、強制的に向き合わされる可能性がある、という覚悟を。

そして女は、自らが置かれている現状を、勇気を持って一歩踏み出すことによって、自分の力で変えられるかもしれないという誘惑をもたらされる可能性と、その誘惑に負けた時に起こるであろう様々な出来事に対処し、負けずに成し遂げるという覚悟を。

支配しようとする男のシステムに巻き込まれる女の弱さ、そのシステムから脱却すると決心する女の強さ、そして寂しさを感じつつも自立した存在として自由を謳歌し自分の責任で人生を勝ち取って行く女の美しさが、この小説には全て詰まっている。

今年のベスト3に入る名作。だが男は読む前に覚悟を決めるべし。

 

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kazenoutawokike.jpg村上春樹の「風の歌を聴け」を読了。多分20回以上読んでいるが、このブログにはまだレビューを書いたことがなかった。

ご存知の方も多いと思うが、本作「風の歌を聴け」は村上春樹のデビュー作であり、群像新人賞受賞作である。

村上春樹といえば、いまやすっかり長編小説の大家になっているため、今になってからこの「風の歌を聴け」を読み返すと、今とはずいぶん異なるスタイルで書かれていることに改めて気付かされる。

だが、スタイルは異なれど、この短い作品にもたくさんのエッセンスが詰め込まれていて、やはり村上春樹という作家はデビュー当時から非凡な才能を発揮していたんだなあ、と嘆息する次第。

たとえばストーリーテラーの数の多さとその入れ替わり方の潔さが挙げられるだろう。この物語にはのストーリーテラーがいる。わずか150ページの一人称小説で、語り手が3人もいるというのは異例だし、しかもその語り手の交代がスムーズかつシームレスに行われている点は高く評価されるべきだろう。

小説を書いている著者としての「僕」、そして大学生の「僕」、それともう一人、ラジオのDJの3人である。「僕」の視点が短いサイクルで入れ替わることで、登場人物達と読者に距離が生まれ、結果全篇を通じてどこか冷めたような、クールな印象を与えている。

また、語り手の人数の多さとともに、時系列で進むベースの物語と、それ以外の装飾部分のランダムな挿話の挿入が小気味よく、軽快で心地良いテンポを生み出している。

そしてもう一つ、小説家村上春樹が語る言葉の「嘘」が見事で、これがこの作品全体にピリっと辛い香辛料として作用している。作品の前書きとあとがきの部分で、小説家としての「僕」は、一番営業を受けた作家として、「デレク・ハートフィールド」を挙げ、研究者名や参考資料名まで挙げてハートフィールドに対する思い入れを吐露しているのだが、デレク・ハートフィールドなどという作家は実在しない。

つまり、この作品においては、前書きもあとがきも含めて全てがフィクションなのだ。作者として登場する「僕」jも、実はリアルな村上春樹ではなく物語の一部なのだ。そう考えると、このデビュー作は、実に深みがあり、良く練り込まれた作品だと感心させられる。

物語はこの後「1973年のピンボール」、「羊をめぐる冒険」、「ダンス・ダンス・ダンス」へと続いて行く。僕はこの4部作が大好きだ。この世界観と登場人物達をとても親しく感じるし、「僕」と自分に共通する部分がいくつもあるように感じてしまう。

いつか、もう一度、村上春樹がこの4部作の続編を書いてくれたらいいな、そんな風に思わせてくれる快作だと思う。

 

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