麻布に関するエントリー

090226-03.JPG何年前からだろう、年に二度か三度、僕は旅行に行くためでもなく、映画や美術館などに行くためでもないのに、休暇を取るようになった。

何のためか。それは西麻布(旧麻布霞町)の「三河屋」さんでランチを食べるためだ。三河屋さんは平日のランチタイムしか営業していないため、ここで食事をしようと思うと、仕事を休んで行くしかない。だから僕は、年に二度か三度、この店のランチを食べるだけのために休暇を取ることにしている。そしてそれが今日だった。

仕事を休んでまで行く価値がある店なのか。もし誰かに聞かれたとしたら僕は次のように応えるだろう。「少なくとも僕に取っては休暇を取ってでも、電車に乗ってでも行く価値がある店だ」と。三河屋さんは単なる定食屋ではなく、麻布と僕の思い出に直結するとても大切な場所であり、お父さんとお母さんが僕を迎え入れてくれることは、麻布という土地が僕を受け入れてくれていることの証明のように思えてしまうのだ。誰にとっても自分の故郷や思い出の場所に一カ所や二カ所、大好きなお店というのがあったりするものだと思う。僕に取って三河屋さんは、そういう大切な場所の一つなのだ。

090226-04.JPGお店の営業時間は11時30分からなのだが、開店時間の11時30分に行ったのでは、既に行列が出来ていて、その後ろに並ぶ羽目になる場合もある。この傾向は年々強まってきているように思う。僕が最初にこの店に通うようになったのは麻布に戻ってきてからで、当初は11時半に行けば確実に座れたのだが、噂を聞きつけた人が「我先に」とやってくるようになり、徐々に埋まるのが早くなってきているのだろう。

それでも前回までは11時半までは料理は出ておらず、客は席に座って11時半になるのを待っていたように思うが、今日は11時25分に到着した時点で、既にほぼ定食を食べ終わっている先客がいて、空いている席は僕が座ったカウンターの1席だけだったから、開店時刻を早めたか、早くから来た客にも料理を出すようになったのかもしれない。相変わらずの大人気である。

改めて説明すると、この「三河屋」さんは、西麻布交差点からほど近い外苑西通り沿いにある、老夫婦が経営する揚げ物定食屋さんである。この場所は僕の小学校時代の通学路沿いで、当時はごく普通の町の肉屋さんで食堂はやっていなかったのだが、バブル期に住民数の減少により肉屋の商売に見切りをつけたご主人が思い切って業態替えをして、それまで肉屋でお惣菜として販売していたトンカツやメンチをメインにした定食屋を始めたところ、これが受けて店は人気店になった。

そして時代は下り、ネットの口コミサイトが全盛となると、この店の口コミが瞬く間に広がっていき、東京レストランガイドの年間最優秀店に選ばれたりするようになり、「町の美味しい定食屋さん」は、東京でも指折りの有名店になり、昼時にはいつも行列が出来るようになった。

僕が麻布十番に戻ってきた頃にはもう店はすっかり有名店となっており、最初は興味本位で「あの三河屋さんがねえ」という感じで行ってみたのだが、一度行ってすっかりファンになってしまい、それ以来年に数回の「三河屋詣で」が続くようになったというわけ。

さて、話を今日のことに戻すが、このところのドタバタもあったりで、今回の訪問はかなり久し振りのことだった。10ヶ月ぐらい間があいたのではないか。そしてここ一~二年ほど前から、揚げ場を担当しているお母さんの脚がかなり悪そうで、しかも腰も深く曲がってきており、ご夫妻のコンディションが気がかりになるようになってきている。

今回も、「まさか閉店してたりしないだろうな」と心の隅で恐れつつも店の前に辿り着き、無事営業しているのを見てホッと胸を撫でおろした。麻布に住んでいた頃は早朝のジョギングで店の前を通ると、6時前からお父さんが厨房に入り仕込みを始めているところを見かけたりもしたが、引っ越してしまった今となっては、店が無事に営業しているかどうかを直接確かめる術はない(電話をしてみるという手はあることはあるが、それも何となく憚られる)。

入店した時点ではお母さんはいつも通り揚げ場にいて次々とトンカツやメンチを揚げ続けていたが、お父さんの姿が見えず一瞬不安になる。「まさかお父さんは病気で休んでいるとかじゃないだろうな」と考えていると、11時半を過ぎた頃に無事お父さんが元気良く登場し、ホッと胸を撫で下ろす。

滅多に来られない店なので、いつも何を食べるか非常に迷う。前回は初めてトンカツを食べた。今回はまだ一度も試していない海老フライかチキンカツにしようかと思いつつも、それだと名物のメンチカツもコロッケも食べられないしなあ、と悩みまくる。

意を決してチキンカツを注文したところ、娘さんが「メンチかコロッケとミックスにします?」と聞いてくれた。え!?前回までそんな組み合わせのサービスなかったよね。これは嬉しいぞ~。というわけで迷わずチキンカツとメンチのミックスにしてもらう。有り難い。

090226-02.jpgそして登場したのがこちらの定食。チキンカツとメンチ、それにコロッケをオマケで付けてくれた。うほー。これまた嬉しい。何を頼んでも小さな「オマケ」を付けてくれるのがこのお店のサービスなのだが、今日はコロッケだった。丁度コロッケが食べたいなあと思っていたので大はしゃぎ。嬉しい。

うーん、やっぱりここのメンチは美味いなあ。チキンカツはあっさり系でこれはこれで悪くないけれど、やっぱり何といってもメンチが美味い。スパイシーでジューシーなひき肉の風味が際立っていて、嬉しくなる。コロッケは小型でジャガイモの食感が残るタイプで、これまた美味い。ホカホカご飯と一緒に口に運ぶと幸せ。

以前は付け合わせでマカロニサラダが付いたのだが、前回訪問時に、原価高騰のおり、値上げしない代わりにサラダの付け合わせを取り止めた、とお父さんから告げられた。サラダもやっぱり欲しいなあ。

店内は男性客が目立つ。皆黙々と食べ、食べ終わると静かに席を立つ。ランチタイムで満員の店内は思いの外静かで、その店内を張りのあるお父さんの「いらっしゃいませー」という挨拶と、お母さんがカウンターの客が立ち上がろうとすると「ご飯お代わりしなくていいの?」とか「もっと食べなさい、遠慮しないで」なんて話しかける声が良く響く。

食事を終えて店を出て時計を見ると、11時45分。わずか20分の滞在。でも僕はきっと今年、あと1回か2回はこの店にやってくるだろう。その日も特に予定は何も入れず、ただ昼前に三河屋さんへやってくるだけのために休暇を取って、お父さんとお母さんの元気な姿を確かめるために。

11時45分、まだ12時にもなっていないのに、店の外には既に20人ほどの行列が出来ていた。あいにくの曇天からポツリポツリと雨まで落ち始めていたが、並んでいる人達の顔は皆とても嬉しそうで、このお店の近所に会社があったらどんなに素敵だろう、などと妄想しつつ、僕は三河屋さんとの10ヶ月ぶりの短い逢瀬を終えた。



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caf6aeab.jpg読売新聞にこんな記事が。

なるほどねー。クレディ・セゾンの子会社「アトリウム」の社員が、不動産会社「リアライズ」の特別目的会社からスクエアビルの土地・建物取得のため便宜を図り、5,000万円を個人的に受け取った見返りとして、本来融資を受けられないような状態なのに無理矢理審査を通した、と。

しかし、融資を受けて数ヶ月後には既に返済が出来なくなり、結局全額焦げ付き、土地とビルはクレディ・セゾン子会社が買い取り、その後ビルは解体。土地はそのまま塩漬け中、ということか。

なんだかバブル崩壊後の嫌な夢を見てるみたいな重苦しい記事だな。バブル期の六本木の象徴の消え方としては、ぴったりといえばぴったりなんだろうけど、もうちょっと美しい余韻を残して欲しかったというのが正直なところかな。

しかし融資を受けて数ヶ月で焦げ付くってのは一体どういうことなんだろうかねぇ。不動産業界のことは良く分からんが、それってビジネスとしてちょっとあんまりなんじゃないの?

なんだか残念だ。
IMG_0041.jpg表参道の「まい泉」でカキフライを食べて、ぶらぶらと歩いて根津美術館の脇を下り、西麻布の旧麻布笄町にあるラムの聖地・「タフィア」へと向かう。

7時半から開いているはずなのだが、7時45分に着くとバイトの女の子が申し訳なさそうに「オーナーがまだ着いてなくて」と言う。「あと30分で」という言葉を胸にじゃあ時間を潰すかということで、近所のダイニング・バー"Volca"でメルローを一杯飲みつつぼんやり。

で、8時45分過ぎに満を持して再訪したところ、無事開店していた。やれやれ。

今夜はテーブル席にお子ちゃまが陣取って騒々しかったが、それでもやはり落ち着くね。最初はキューバの"Legendario"。キューバのラムは二度蒸留するそうで、このLegendarioは一度しか蒸留していないので、正式にはラムではないそう。へー。「スッキリ」というリクエスト通りで、スキッとしていて、でもちゃんと存在感があって良い感じ。

IMG_0042.jpg
一方こちらはバルバドスのラム、"Doorly's"。こちらはカラメル風味が表に出る力強い薫りが特徴で、でもずどーんというほどの威力はなく、やはり良い感じ。ただ、ずっとこれを続けるのはちょっと辛いかも。

もうすっかりタバコは吸わないのだが、両隣がシガーやタバコを吹かしている空間にいると、ちょっとだけタバコが吸いたいという欲望が出てくるね。思わず店員さんにタバコを頼もうかと思ったが、シガーを薦められそうだったのでやめた。



IMG_0046.jpg
最後はフランス領の"St. Martinique"島の"Saint James"の12年を頂く(写真の一番左)。

僕はどうもマルティニク島のラムととても相性が良いみたいで、このSaint Jamesもそうだし、"Rhum Nation"のマルティニクもそうだけど、という話をオーナーさんにしたところ、Rham Nationのマルティニクは、中身は"Saint James"だとのこと。そうなんだあ。

で、オーナーさんが並べてくれた2本、真ん中の白いラベルと右の赤いラベルはどちらも日本では売ってないホワイトとゴールドだそう。特に真ん中のホワイトは、蒸留所の周辺のサトウキビから作られた限定ものだそうで、ラベルにシリアルナンバーが振られていた。

IMG_0044.jpg
口当たりが良くて、ついつい飲み過ぎてしまうので、もうちょっと、と思うところで早めにお暇。しかしこのマニアックさには本当に脱帽だ。

買ったばかりの手袋をして墓地下から乃木坂にかけての道を歩くと、ちょっとだけ良い気分。

「かおたんらーめん」か「五行」でラーメンを食べて帰りたいとちらりと思ったが、それはちょっと贅沢しすぎなのでやめてまっすぐ帰ってきた。
2392415720_2f5983eb1d.jpg数日前、朝に日経新聞を読んでいて、広告欄に出ていた不動産の専門雑誌の見出し広告に、六本木スクエアビル解体、と書いてあった。

ビックリして調べてみたところ、解体のニュースが出たの自体は昨年3月とのことで、決して新しいニュースではないようだ。

スクエアビルといえば、一昨年公開された映画「バブルへGO!」にも登場していたが、バブル期の六本木を象徴するビルだった。当時はエレベーターはギューギュー詰めで、上の階から下の階まで全部がディスコばかりだった。生まれて初めて行ったディスコはスクエアビルの上の方の階にあったReveというところだったなあ。

他にもネペンタ、バイオ、ツバキボールなどなど、色々あったよねえ。ああ、あの頃はバブルという時代もあったけど、何もかもがキラキラしてて、楽しそうだったよなあ。僕は自分が客商売の仕事をしていたせいもあって、ずいぶん斜に構えてはいたものの、それでもやっぱり世の中はバブルで浮かれていて、僕だってやっぱり浮かれていた。今の日本を覆う閉塞感とはえらい違いだよなあ。

バブル絶頂期当時は、マハラジャやGoldといった高級店に人気が集まっており、スクエアビルのディスコはどちらかというと庶民派で、トップブランドというイメージではなかったが、それでもやっぱり六本木を象徴する場所ではあった。

3月に解体が決まったということは、ひょっとしてもうなくなってしまっているかもしれないなあ。最近アマンドの移転やら何やらと、六本木の象徴がなくなっていくニュースが多くて寂しいな。

*写真はこちらの方のflickrからお借りしました。
六本木経済新聞にこんな記事が。

六本木交差点の待ち合わせ場所としてあまりにも有名な六本木アマンドがビル建て替えのため閉店だそうです。

アマンドで飲食した経験は一度しかないのですが、あのお店が交差点からなくなるというのは、何とも寂しいことです。

また一つ麻布名物が消えますね。残念です。
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