中川昭一財務相辞任で思う 依存症なら糾弾ではなく治療を [days]

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ここ数日、中川昭一財務大臣がG7後の記者会見で泥酔状態だったのではないかという疑惑から、本人は泥酔状態ではなかったと主張しながらも、迷惑をかけたから、という微妙な理由で辞任を表明というニュースがやかましかった。

最近ほとんどテレビを見ないので、問題の中川大臣の会見は見ていなかったのだが、今朝たまたまニュースで問題のシーンを放映していて、嫌だなあと思いつつも見てしまった。

ああ、これはアル中だ。テレビを見て僕はすぐに思った。風邪薬を多少飲み過ぎたからと言ってあんな状態になるものではないし、僕は過去10年近くに渡り、目の前に末期アル中患者がいて、毎日一緒に過ごし、闘ったから良く分かる。あれはどこからどう見てもアル中である。

僕の元上司は2005年4月に首つり自殺をしてこの世を去った。彼はアルコール依存症だった。それもかなり重度の。亡くなる約一年前に、彼は汚物まみれ前後不覚の状態で会社から追い出され、そしてその一年後に、一人きりの自宅マンションでひっそりと死んでしまった。

僕が勤めていた会社に彼が上司として入社してきた時、彼はまだ末期のアルコール依存症ではなかった。普段から自己主張が強く空気が読めない、だが実はとても気が小さく心の奥に深い傷を負った、一人の男だった。彼は良く酒を飲んだし、ウチの会社に入ってくる前の職場をアルコール性肝炎で辞めていた。だから、もともと彼には問題が多々あったのだ。ウチの会社に入ってくる前から。

だが、少なくとも僕が最初に彼に会った時、彼は自信に満ちているように見えたし、大酒飲みには見えたが、アル中だとは夢にも思わなかった。

最初に「おかしいな」と僕が思うようになったのは、彼が会社を辞める3年前のことだった。その年会社は過去最高の利益を上げ、僕らは皆自信に満ちていた。手狭になったオフィスを出て、広いオフィスに移転も決まろうとしていた頃だった。

その頃から彼は、「もうこの会社は大丈夫だ」、「もう俺がいなくても心配ない」と、口癖のように言い始めた。そしてその頃から、朝に出勤してくる時に酒臭いことが増えてきた。それまでも酒好きではあったが、夜に飲むことはあっても朝から酒臭いことはなかった。

続いて、ランチ時に飲酒するようになった。定食屋でもそば屋でも行けばビール、日本酒と飲んでしまう。それはさすがにまずいということで彼の上司もずいぶん注意したのだが、飲酒はどんどんエスカレートしていった。

僕も周囲の人間も、上司は利益が上がって気が緩み、ぶったるんで酒を飲んでいるんだと思っていた。だから周囲は彼を責めたし、僕も彼が責められるのは当たり前だと思っていた。だが、徐々に彼の置かれている状況は、「気の緩み」などという言葉では説明できないものだということが判ってきた。

連続飲酒がやってきたのだ。朝に出勤してくる時点ですでに泥酔しており、まさにベロベロの状態で、理屈も通じなければ本人も話すら出来ない。前後不覚の状態で怒鳴り散らし、業務が始まるとすぐに椅子で熟睡してしまう。そして昼時に目覚めて昼食時に再び飲み(昼から日本酒を冷やでがぶがぶ飲む)、午後はまた眠り、夕方に目覚めるとまた飲むのだ。

それでも最初は客先との会合や打ち合わせがない日だけの状態だった。しかし、徐々にそれが悪化していき、顧客訪問の日の朝もベロベロで出勤してくるようになっていく。

さすがにそのような場合には上司は置いていくようにしていたのだが、そういう態度が気に入らなかったのか、僕がいない時を狙ってベロベロの状態で客先に電話を掛けるようになる。当然訳が分からないことばかり言うし、怪訝そうな声をあげる顧客を怒鳴りつけてしまうこともあり、それが理由で取引がなくなるケースも出てきた。

客先への納品に自分が行くと言い張って朝の9時過ぎにオフィスを出て、40分ほどで着くはずの顧客に一時間半以上経っても辿り着かず、昼前に前後不覚の状態でやってきたと、顧客から僕宛に電話が掛かってきて、「勘弁してくださいよ」と言われたこともあった。

そして時代はITバブル崩壊を迎え、過去最高益を出したうちの会社にも大きな試練がやってきた。だが、営業責任者の上司には、もう出来ることは何もなかった。

ガラガラと下がっていく売上げと士気、そんな中で上司は更に荒れていき、泥酔して顧客を怒鳴り、部下にセクハラし、オフィスで嘔吐し、道端で自転車と衝突して血まみれで倒れてパトカーで会社まで連れてこられ、そして地下鉄のエスカレーターの一番上から一番下まで転がり落ちた。

詳しく書けばキリがないのだが、上司はそのような醜態をさらし続け、自己嫌悪と嘔吐と連続飲酒による恍惚の狭間を行ったり来たりしながら体力と気力とプライドをなくしていき、そして自らの命を絶った。

彼は複雑な事情の家庭で育ち、自らの結婚も非常に短命で不幸な結果に終わり、心の中に大きな空白を抱えていた。そしてそれを埋めるために酒を飲んでいた。彼にとっての飲酒は、仕事の後のリラックスのための一杯でもなければ、好きな女の子と親密なひとときを過ごすための潤滑剤でもない。ただただ、自分の心の空白に耐え切れない素面の時間を忘れさせてくれる薬だったのだ。

彼は何度もアルコール依存症の蟻地獄から生還しようと試みた。専門の病院にも自ら入院したし、1ヶ月近く一滴も酒を飲まずに過ごしたこともあった。本人も何とか飲まずに、酔わずにいたいと願っていたのだ。だが、アルコールを求める身体と心は、彼の復活を許さなかった。

アルコール依存症は病気である。

胃が弱くてしょっちゅう胃痛を起こしている人間を責める人はいないだろう。よっぽどの暴飲暴食ばかりしていれば、生活態度を改めろ、と言われることはあっても、胃痛自体を「破廉恥」と呼ぶ人間はいない。

だが、中川大臣のケースで、民主党の偉い人達は、あの姿を「破廉恥」と呼んだ。何故破廉恥なのかといえば、中川大臣の飲酒が「気が緩んで」いたり、「やる気がなかった」り、「ちょっとぐらい飲んでもいい」という思いがエスカレートした結果、ああいうフラフラの状態で会見にまで出てきた、という考えからである。

だが、中川大臣は病気なのである。肺炎や肝炎などと同じような、重い病気なのである。アルコール依存症というのは立派な立派な病気なのだ。本人の意志を蝕み、プライドを破壊し、社会的存在であることが出来なくしてしまう病気なのである。

酒を飲むという行為が通常は自分がリラックスした状態で行われるプライベートな行為であるために、酔っぱらった状態で公な場所に出てくると、プライベートと仕事の区別が付いていない、つまりちゃんと仕事ができない、というレッテルを貼られ、それが「破廉恥」という判断になってしまうのだ。

だが、彼に必要なのはアルコールからの隔離と治療であって、糾弾ではない。糾弾されるべきは、もし中川氏の症状を麻生太郎首相が知っていたなら(知っていただろう)、そんな状態の中川氏を財務大臣という重責を担うべきポストに据えた首相である。

覚醒剤や麻薬と違って、アルコールは摂取する行為自体は違法とされていない。だが、アルコールも覚醒剤と同じ薬物なのである。そして覚醒剤よりも遥かに安価で圧倒的に入手が容易で、しかも中毒症状の進行が麻薬よりもずっと遅く、中毒にならないハッピーな酔っぱらいが大勢を占めている。

だからこそ、アルコール依存症に対する日本人の意識が高まらないのだろう。だが、中川氏を「いい加減な人間」、「破廉恥な人間」と責めることは、肺炎で熱を出している人間に対して「だらけているから肺炎なんかになる」、「こんな大事な仕事の日に肺炎になるなんて」と言って集団で一人を責めていることと余り変わらないということを認識してもらいたい。

大の大人の男が壊れて行くのを周囲が止めることなど、そう簡単には出来ないのだ。だから、せめて出来ることは、周囲は本人を責任が重すぎるポジションに登用しないことだし、症状が進んだら、誰かが心を鬼にして本人をアルコールが入手できない場所に隔離し、合理的治療を受けさせることだ。

中川氏が、中川氏の父や僕の元上司と同じような末路を選ばなければと願って止まない。彼の今回の行為をかばう気はないが、彼はいい加減だから飲んでいるのではないのだ。

多くのアル中患者は鬱病を併発する。そういう、とても重い病気なのだ。


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コメント(3)

はじめまして。
文章を拝読し、大変感銘しました。

アルコール依存症のことをここまで的確に理解されており、それを卓越した文章で表現されていることに驚きました。

アルコール依存症は重い病気です。
しかしそのことはなかなか理解されず、さらに心の奥に潜む原因を知ることは本人すら難しいことだと思います。

お酒は美味しくて人を幸せにすると同時に、乱用によってこのような悲痛な結末を人にもたらしてしまいます。

少しでもそんな人が減ることを祈ってやみません。

モカさんはじめまして。コメントありがとうございます。

アルコール依存症は、本当に怖い病気です。何よりも人間の「回復したい」という想いと、「自分は直せるはず」というプライドをずたずたにしてしまうからです。

生まれつきアルコール依存症という人間は皆無な訳ですから、少しでも依存症になる人が減ることを祈りたいですね。

どうもありがとうございました。

中川氏が、中川氏の父や僕の元上司と同じような末路を選ばなければと願って止まない。....

上の文、今日、当たってしまいましたね。
 あなたは、スゴイ分析力を持ってます。
 上司様の実体験から来てるのですね。
 中川昭一元財務大臣のご冥福をお祈りします。
 

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このページは、ttachiが2009年2月18日 22:42に書いたブログ記事です。

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