書評

10年前の「ジャケ買い本」 書評「閉じたる男の抱く花は」 by 図子慧

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「ジャケ買い」という言葉、若い方もご存知だろうか?

まだCDがなかった頃、アナログレコードはCDよりも遥かに大きい、12inch(約30センチ)の大きさだった。

レコード店は売れスジやお薦めのレコードを良く目立つ棚に飾り、そのジャケットを見せつけたのだ。

そして音楽好きの人々は、誰も知らない掘り出し物のカッコいい音楽を求めて輸入レコード店などを彷徨い、アルバム名もアーティスト名も知らないレコードでも、そのジャケットがイカスなら、「これだ」と決めて購入したのだ。

ジャケット買い。略してジャケ買いである。僕らと同世代の人は皆知ってると思うが、若い皆さんは知ってるのかな?

さて、何故書評なのにいきなりジャケ買いの話をしているかというと、今日紹介する小説「閉じたる男の抱く花は」は、10年前にまさにジャケ買いした本だからだ。

 

閉じたる男の抱く花は

図子 慧 講談社 2001-04
売り上げランキング : 367510

by ヨメレバ

 

 

正確に言うと「ジャケ買い」ではない。「ジャケ & タイトル買い」である。

この本を書店で見かけた時点で著者の図子慧氏に関する知識はゼロ、この本についても何も知らない状態だった。

だが、「閉じたる男の抱く花は」というタイトルに強く薫るリリシズムと、真っ赤に染まる表紙に一目惚れ。迷わず購入してすぐ読んだ。それが10年前。

10年間の間、何度か「再読したいな」と思いつつ、なかなか機会がなかった。今回ぱっと目に付いてすぐ手に取った。そして一気に読了。

10年ぶりに読んだがやっぱりすごく面白かった。大当たり。ジャケ買い大成功だ。

分野でいうとサスペンス。そして「閉じる」「男」「抱く」「花」が全部重要なキーワードとして登場する。

大学の謝恩会が終わり、二次会へと向かう酒に酔った女子二人。そのうちの一人、祈紗は謝恩会会場に届いていた、別れた恋人が送った花束を抱えて歩いていた。

そして謝恩会会場で代議士が殺される殺人事件が発生し、部屋には無数の花びらが撒き散らされていた。

そして暗闇からふいに現われた男に祈紗は拉致される。

男は新宿に本部がある華道の家元関係者。荒っぽいが腕はやたらといい、はぐれ者。家元の私生児。

そしてもう一人。家元を継ぐ約束で養子入りした優男。洗練された実務家で、色男。

祈紗と二人の男、そして殺された政治家と家元一家が複雑に絡み合い、思いも寄らない方向にストーリーは押し流されていく。

舞台が新宿ということもあって、少しだけ「不夜城」と似た匂いを感じるが、こちらの方がずっと洗練されている。

そして女性が描く小説だけあって、美男子の美男子っぷりが見事。一方で女性の性や弱さは生々しく描かれ、その辺りは最近読んだなかでは村山由佳氏の「ダブル・ファンタジー」に近いテイストを感じた。

ラストシーンに向かう疾走感はなかなかのもので、手に汗を握り一気に読んだ。

ジャケ買いの醍醐味を堪能した一冊。また内容を忘れた頃に再読したい。

今年2冊目の文芸書。たまには小説も良いものだ。

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