書評

幸せな「100歳現役サラリーマン」という生き方

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「現役100歳サラリーマン」。この言葉を最初に目にした時に微妙な違和感を感じた。

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日本は世界一の長寿国だから、100歳の方は珍しい存在ではない。僕の祖母も今年の12月で100歳になる。

100歳で現役で仕事を続けているという方も、多くはないだろうがいるだろう。

有名なところでは聖路加病院の日野原さんは101歳にして現役の医師である。

だが、100歳で「サラリーマン」となるとどうだろう。

サラリーマンは会社に雇われているはずで、となると、定年はどうしたの?会社はその人を雇い続ける理由があるの?何か特殊技能を持っている人なの?

などなど、気になることが幾つも出てくる。

「100歳、ずっと必要とされる人」という本の著者、福井福太郎さんが、その現役100歳サラリーマンである。お名前からしてとんでもなく福々しい(笑)。

この本を読んで、世界一の長寿国であり超高齢化時代を迎える日本と日本人の今後について、ちょっと考えた。

 

100歳、ずっと必要とされる人 ――現役100歳サラリーマンの幸せな生き方福井福太郎,広野彩子 日経BP社 2013-05-23
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不運と幸運そして友情

著者福井福太郎さんの経歴は波乱の連続であった。

1936年に慶應大学の経済学部を首席で卒業したものの、正妻の子ではなかったという家庭の事情と大不況とぶつかり銀行への就職に失敗、そのまま研究員として大学に残り助手となる。

しかし徴兵により1937年に軍隊入りし、そのまま終戦までを軍で過ごすこととなる。

終戦後大学に戻ったものの9年のブランクで学者としての生命を絶たれたと感じ、父親が行っていた毛皮の商売を始め軌道に乗せることに成功する。

その後49歳になって、親友が経営していた証券会社、望月証券を手伝ってくれと頼まれ役員として入社。49歳にして始めてサラリーマンになる。

証券会社に70歳まで勤めて退官したが、まだ働きたいと願った福井さんは、証券会社社長の望月さんの紹介で関連会社に顧問として再就職した。社員3名程度の小さな会社で、宝くじの関連業務を行っている。

96歳の時に一旦は「もう年だから」と退職の意向を示したが、会社から「是非残って欲しい」と留意され、100歳になった今も片道1時間かけて通勤し仕事をする。

福井さんはお金に困って働いているのではないという。父親の毛皮商は大成功し、裕福な家庭に育ち、自らも商売を成功させてきた。

福井さんは「働きたいから働く」と言う。そして働き続けられるのは、親友であった証券会社元社長のおかげだと。

就職失敗や徴兵などの不運をものともせず、コツコツと働き続けてきた福井さんの原動力は何なのだろうか?

 

 

 

利他の心で求められる人に

この本にたびたび登場するキーワードがある。

それは「利他」である。

大学で経済学を学んだ福井さんは、18〜19世紀のフランス経済学者シスモンディの影響を強く受けている。

シスモンディが説いた「利他の心」が福井さんの座右の銘ともいえる、柱となっているのだ。

「自分のために働くのではなく、親友のために働いた」と福井さんは証券会社時代を振り返っている。

大学助手時代に知り合い親友となった証券会社社長の望月さんを支えることだけを考えて、福井さんは働いたのだという。

周囲の人は望月さんに、「あんたはいいな。福井さんのような人がそばについてくれて」と羨むほどの、徹底した働きぶりだったという。

望月さんが経営する証券会社は合併を繰り返し、望月証券から日本勧業角丸証券、みずほインベスター証券へと名前を変え、いまはみずほ証券となった。

70歳にして証券会社を退職した後の再就職の世話をしたのは望月さん自身、そして再就職先のオーナーは望月さんの奥さんだったという。

96歳の時に福井さんが退職を申し入れた際にも、望月さんの奥さんは「ずっといて欲しい。福井さんが会社に来てくれるだけでいい」と慰留したという。

利他の心で働き続けた結果、福井さんは働き続ける場所を得たのだ。

しかし、100歳という高齢で、なぜ福井さんは働き続けたいと願うのだろうか。

 

 

 

働かせられるのではなく働きたい社会へ

福井さんは100歳でも働いているが、福井さんの息子さんは70歳ですでに現役を引退しているという。

なぜ100歳を越えても福井さんは働き続けるのか。

福井さんは「それが本能だから」と言う。

動物は死ぬ直前まで自分の力で食べ物を捕獲する。だから人間も動ける間は働き続けるのが本能だ。

それが福井さんが働く理由なのだ。

もちろん、すべての高齢者が働ける環境が用意されているわけではないことも福井さんは理解している。

だが、100歳になっても働きたいと思う人がいて、働けるだけの健康な身体を維持できて、しかも働いて欲しいと願う会社があるという事実は、これからの日本を考える一つのヒントになるのではないだろうか。

 

 

日本は人口減が現実のものとなり、これからどんどん人口が減り、そして高齢者の割合が増えていく。

人口が減るということは生産者も消費者も減ってしまうことを意味する。

そのような時代に、健康で元気な高齢者が現役として生き甲斐を持って働き続ける環境があれば、日本は一時的にだが生産者人口の減少を先送りできるだろう。

もちろん、高齢者が職を独占して若年層が仕事からあぶれるような図式にならないような工夫が必要だ。

ただ、デフレがきちんと終息して景気が良くなれば、働き手不足が現実のものとなり、若者と老人の仕事の取り合いという構図にはならなくなるのではないだろうかと期待している。

いずれにしても、福井さんのように「働き続けたい」と思う人がいて、望月夫人のように「ずっと働いて欲しい」と願う組み合わせが必要なのは言うまでもない。

「働かされている」という意識では、もちろん働き続けていくことはできない。

多くの高齢者が「働きたい」と思える環境が作られることが必要なのだと感じた。

 

 

 

まとめ

僕はサラリーマンを辞めてしまったので、もう「定年」というものは存在しなくなった。

だから僕も、身体が動く限り、働き続けられる限り働くのだろうと思っている。

でも、世の中の多くの会社員の方は、定年という精度があるために、働き続けたくても一定の年齢で会社を辞めなくてはならない。

日本人の寿命がどんどん伸びているなかで、「仕事をしない人口」がどんどん増え、仕事をしている人の人数がどんどん減っているのだ。

もちろん簡単に答えが出る問題ではないが、福井さんとこの本が発しているメッセージには重要なモノが幾つも含まれているように思う。

「働き続けることが本能」「働ける場所を自分で探す」「常に人のために働く」

ソビエト連邦が成立する前から生き続ける福井さんの言葉には、重く本質的なモノが多い。

僕ら多くの「若い」日本人は、福井さんの言葉から学ぶことが多い。

とても勉強になる本でした。

僕も頑張って100歳、いや120歳まで現役でバリバリ仕事をしたいと思いました!

頑張ろう!

 

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