書評

ネットにおけるヒトとモノの流れを掴め! “ロングテール [アップデート版]” by クリス・アンダーソン [Book Review 2011-001]

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さあ、ブックレビューも2011年度に突入。昨年は126冊の本を読んだ。今年の目標は200冊。そしてその10%の20冊を文芸書にするという形にしようと思う。この中には雑誌は含めない。

ただ、昨年同様自分に対する約束として、冊数をこなすために内容の薄い本を読むことはしない。これは絶対妥協しないこと。

では早速2011年の一冊目、いってみよう。

ブックレビュー2011年の1冊目は、クリス・アンダーソン氏著、「ロングテール [アップデート版]」を読了。

 

ロングテール(アップデート版)―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略

クリス アンダーソン 早川書房 2009-07
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クリス・アンダーソン氏といえば、雑誌「Wired」編集長であり、昨年話題になった「フリー」の著者でもある。

このブログの「フリー」のレビュー・エントリーはこちら。

 

 

本書「ロングテール」はオリジナル版が2006年に出版されたのだが、この「アップデート版」は2009年に最終章と補遺が加筆され、また全体に対する情報のアップデートが行われた改訂版である。

そもそも「ロングテール」とは何か。ずいぶん話題になった言葉なので言葉の意味はご存知の方も多いと思う。日本語にそのまま訳せば「長いシッポ」である。そしてその長いシッポとは、インターネット上での商品の売れ方に関する特徴を言い表した言葉である。

ネットでの商品販売が一般化する前の、店舗を擁しての物販とオンライン・ストアでの物販では、モノの売れ方が大きく異なる。リアルな店舗は立地条件や店の広さなどの物理的限界があるため、陳列できる商品の数と種類に限りがある。

そのような制約があるリアル店舗では、店側はなるべく人気商品を集中的に置き、売れない製品はなるべく置かないようにすることで売上を伸ばそうとする。

その結果、どこの店に行ってもだいたい同じようなラインナップの売れ線商品だけが並び、なかなか売れない商品は日の目を見ることがない。そして我々購買者も、リアル店舗しかなかった時代には、店に置いてある売れスジ商品の中から、もっとも自分か欲しいものを選んで買っていた。

ところが、ネットの登場により状況は一変する。

たとえば音楽の販売が典型的だが、AppleのiTSは店舗を持たずにインターネットを介してのダウンロード販売のみを行っている。この場合、音楽ファイルはAppleのサーバ上に格納され、ユーザーが楽曲を購入した時点でネット回線を経由してデータが転送されるだけでビジネスが成立してしまう。

デジタル情報はサーバのストレージ容量が続く限り種類を増やしていくことが可能で、しかもストレージはムーアの法則に従って18ヶ月ごとにコストが1/2になっていく。

しかもデジタルデータをネット経由で販売するだけなら、実際のCDをプレスしたり販売店まで輸送したり販売店で店員がCDを棚に並べたり販売時にレジを打ったり包装したりするコストがかからないので、販売者はほぼ無限に商品ラインナップを増やしていくことができる。

そのような状況に置いては、楽曲の売れ方はリアル店舗とどのように違うか。それがロングテールだ。つまりヒット曲を動物の頭にたとえた場合の、動物のシッポが、リアル店舗の場合と較べ、ネット店舗では限りなく無限に長く延びていくのである。

店舗という限界がなくなった時、販売者は商品数をほぼ無限に増やしていくことができ、そしてユーザーは無限にある選択肢の中から、「もっとも売れていて人気がある商品」ではなく、「本当に自分の好みにあったニッチな商品」を選ぶ方向に変化したのだ。

その結果、売れスジではない、今までであれば店に置かれなかったような商品でも、無限のスペースに置いておくことによって、少なくない人々がそれを探して購入していくことになった。

ネットの時代がきて、ヒット商品は従来よりもヒットの規模が小さくなり、多数のニッチ商品の少しずつの売上が、合計するとかなりの比率となった。ロングテール、長いシッポはどこまでいっても売上がゼロにならず、誰かが買うのである。

今は音楽を例にしたが、これは全ての分野に置いて急激に起こっている現象だ。

書籍もまったく同様。アマゾンの台頭により、従来は街の本屋をうろついて見つかった中から買うしかなかった書籍の選択肢が、日本中のほぼ全ての書籍にまで一気に広がった。

しかも大手出版社の本か無名出版社の本かなどのチャネルの販売脳力とは無関係に、ユーザーが入力するキーワヒドにもっともマッチする書籍が候補として表示されるようになったのである。

テレビや映画も同様だ。以前は地上波のごくごく限られた数チャンネルからしか視聴番組を選ぶことができなかった我々は、今では地上波、衛星放送だけでなく、CSやケーブルにある夥しい数の専門チャンネルから観たい番組を選ぶことができるうえに、ネットのYouTubeなどを経由して観たい番組の観たい部分だけを切り取って視聴することが可能になりつつある。

さらにiTSでの映画配信も日本でスタートし、潤沢にあるマーケティングが今後すべての商品をいかに売って行くかの大前提となるだろう。

著者が暮らすアメリカと較べて、日本でのロングテールは特に映画配信、テレビ番組配信、電子書籍配信などの分野で遅れていることは周知の通り。

だが、この流れを止めることは、もはや誰にもできないのだと、旧来メディアの人々は一日も早く気づくべきだろう。

多くのネット出身のメディア関係者が口を揃えているとおり、ネットとテレビは本来相性の良いメディアのはずだし、出版社(というか取次か)や新聞社はネット配信への柔軟な対応に早くそして大胆に足を踏み入れることで、淘汰されず生き残る可能性が増すのだと、僕は信じている。

「ロングテール」の先にあるものは、まさに「フリー」であり「バイラル・ループ」な世界なのだと、本書を読んで改めて確信した。

この世界観を認識しているかいないかで、今後の生き方は大きく異なるだろう。今更だが読んで良かった。

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