ノルウェイの森 by 村上春樹 書評

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村上春樹さんの「ノルウェイの森」が発表されて24年が経った(本記事公開の2011年当時)。

「ノルウェイの森」は僕が最初に読んだ村上春樹作品だ。

最初に読んだ時には、あまりの衝撃に、下巻を読了した瞬間に再度上巻を手に取り読み直し始め、3回か4回ぶっ続けで読み漁った。

あの時の衝撃は今でも忘れない。

あれからいったい何年が経ったのか忘れたが、僕は恐らく「ノルウェイの森」を30回くらいは再読してきたのではないかと思う。

初回の衝撃は失われ形を変えていくが、やはり読むたびに新たな感慨を与えてくれる小説だ。

最後にこの本を読んでから、恐らく2年か3年が経ったように思う。このNo Second Lifeに書評がないところを見ると、3年ぶりくらいかもしれない。

この小説は僕に「秋」を思い出させる。だからだろう、秋が来るとこの本を手に取りたくなるのだ。

丁度村上龍の「コインロッカーベイビーズ」を夏に読みたくなるように。

そして今年、やっとこの本の書評を書く機会を得た。

今まで書いていなかったことが不思議で仕方がない。やっと書ける嬉しさを噛みしめながら書いてみる。

ノルウェイの森 by 村上春樹 書評

村上春樹さん最大のヒット作

「ノルウェイの森」は村上春樹さんの5作目の長編小説であり、彼がフルタイムの作家になってから3つ目の長編となる。

順番としては、「羊をめぐる冒険」、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」、そして「ノルウェイの森」となり、この次が「ダンス・ダンス・ダンス」である。

ノルウェイの森は村上春樹作品で最大のヒット作となっており、上下巻併せて454万部(2011年当時)が売れている。

あれだけ話題になった「1Q84」ですら、Book 1とBook 2の合計が223万部の販売(2011年当時〕なので、いかに「ノルウェイの森」が強烈に売れたかが分かる。

そしてこの作品の大ヒットにより、村上春樹は現代の日本を代表する作家となった。

だが、大ヒットしたが故の批判も多く、村上春樹さんを「イロモノ」「異端」と評価をする人も多く、「好きな作家は村上春樹さん」とは言いにくい雰囲気があった。

「あんなチャラチャラした作家なんて文学じゃないよ」というムードだ。

ただ、事実として「ノルウェイの森」によって村上春樹さんは国民的作家になったし、この本はハードカバーで我が家にもやってきた。

母が買ってきたのだ。国民的作家になるというのは、つまりそういうことなのだ。

村上作品の異端児

僕自身はこの本が大好きではあるのだが、人から「村上春樹作品でどの本が好き?」と聞かれた時には、この本はトップ3には入れずに答える。

何故か。

それは、この本をどう読むかによって、大きく好みが違ってしまうのと、村上作品の中で、あまりにもこの「ノルウェイの森」は異質な作品だからだ。

村上春樹さんは長編旅行記「遠い太鼓」の中で、「ノルウェイの森」の位置づけについて、かなり詳細に説明している。

「ノルウェイの森」は、徹底的にリアリズムにこだわった本であり、しかも著者村上春樹自身の経験や思い出に支配された「恋愛小説」だという位置づけになっている。

簡単にいうと、ほとんどの村上春樹さんの長編に登場する化け物やこの世のモノではない異物、「やみくろ」や「リトルピープル」や「羊男」などが登場しない、リアルの世界だけで完結している小説ということになる。

また、他の村上作品は、平易でテンポの良い文体の反面ストーリーには数多くの伏線やトラップが仕掛けられていて、複雑で迷路のような構成になっている。

いっぽう「ノルウェイの森」に限っては、そのような仕掛けはほとんどなく、ストーリーはほとんど時系列で単純に進んでいく。

ノルウェイの森がそのように異質なものとして完成したのは、村上春樹さん自身が40歳という節目を迎えるにあたり、自らの青春時代をベースとした、若くリアルな小説を書いておきたい、という想いを抱いていたことが理由である。

そして、当然村上春樹さん自身もこの作品が「異質」であることを自覚して執筆している。

だから、この作品が400万部を越える大ヒットになったことに、村上春樹さんは「居心地の悪さを感じる」というコメントを出している。

彼が多くの作品で描いてきた世界観とは大きく異なる実験的作品が最大のヒットとなってしまったことに、彼は戸惑ったのだ。

数多くの大ヒット作を生み出してきた村上春樹さんの長編小説の中で、極論をいえば「もっとも浮いている作品」。それこそがこの「ノルウェイの森」だと僕は思っている。

恋愛小説として読むか、時代小説として読むか

さて、この「ノルウェイの森」だが、僕の周囲の人では「好き」だという人と「嫌い」という人に大きく分かれる。

この作品を「嫌い」と言う人の多くは、村上春樹さんの定義どおり、「恋愛小説」としてこの本を読んでいる人のように思う。

20歳そこそこで15人以上の女性と寝て、必ず女性側からアプローチされ、自分からは何も告白せずに恋愛が進んでいく。

自分の将来にも特に希望はなくやりたいこともなく、日々をぼんやりと生きセックスばかりしている。

恋愛小説として読むと、この物語はとてもいびつでしかも主人公に都合良く世界が回っているように見えてしまうのだ。

それは僕もまったく否定しない。その通りだと思う。

だが、物語の舞台となっている1969年〜1970年を生きた若者たちの姿を捉えた時代小説として読むと、物語の装いはかなり変化してくる。

日米安保闘争、まさに学生運動の嵐が吹き荒れ、アメリカではベトナム反戦からフラワームーブメントが起きた。

ビートルズは解散しようとしていて、ジミヘンやジャニスやコルトレーンが次々と死んでいった。

戦後復興から高度経済成長の大ブームが一段落し、その後の石油ショックを迎える手前の踊り場の時期。

そして反核・反戦ムーブメントの時代。ヒッピー文化の時代。

それまでの重厚長大に対するアンチテーゼが生れた時代。

そんな時代に、ヘルメットを被って反米を叫んでいたかと思うと急にスーツに着替え就職活動をする周囲の学生に馴染めず、浮いた存在となる主人公。

日本がどこに向かっているのか。自分は将来どうなるのかという漠然とした不安。

そしてアメリカから届く、ヒッピー文化。そこにはドラッグとセックスを正面から受け入れる時代の波があった。

「ノルウェイの森」の主人公「僕」は、そんな1969年から70年を生きた、不器用な大学生の一人だ。

物語に描かれている登場人物一人ひとりが、この時代の中で生きていることを強く意識してこの本を読むと、「恋愛小説」ではなく、「時代小説」としての作品の側面が浮かび上がってくる。

69年の世界で、当時の若者たちは、今よりもずっと刹那的かつ性に開放的なムーブメントの影響を受け、一方で安保闘争などの暴力にも触れながら生きていた。

この背景を考慮して読むと、この作品はぐっと深くなる。

若い人は、アメリカで開催された「ウッドストック」ライブのDVDなどを観てから「ノルウェイの森」を読むと、その時代の雰囲気が良く分かるのではないかと思う。

文体と世界観の様式美

僕が「ノルウェイの森」を愛するもう一つの理由は、この小説の文体と世界観だ。

文体については、村上作品に共通する部分ではあるが、とてもシンプルかつソリッド、しかもリズムが良くスイスイ読める文体が好きだ。

僕がこの本を最初に読んで猛烈に衝撃を受けたのも、村上春樹さんの文体に初めて触れ、その完成度の高さに驚いたからだ。

「どうやったらこんなに簡単そうに、深い文章を書けるんだ?」

村上作品の最大の魅力の一つは、この文体といって過言ではないだろう。

そしてもう一つ僕が愛するのが、この作品で描かれる舞台や登場人物の様式美だ。

僕自身が大学が法政で英文科だったことも影響している。

法政大学は、僕が大学に入学した1988年の時点で、かなり活発な学生運動を展開している数少ない大学だった。

バブル絶頂の時期にヘルメットをかぶった学生がバリケード封鎖で期末試験が実施できない、なんていう学校は、ほとんどなかっただろう。

だから、学生運動全盛期を描いたこの「ノルウェイの森」を読むたびに、僕は自分の学生時代にトリップするような錯覚を憶えるのだ。

また、主人公や他の登場人物が読む本、聴く音楽、行く店などが、僕の好みに近くて親近感を憶えやすい点もいい。

たとえば音楽でいうとビル・エバンスの「ワルツ・フォー・デビー」、もちろんビートルズの「ノルウェイの森」、ローリング・ストーンズの「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」など。

小説では、コンラッド、フィッツジェラルドなど、「僕」と緑が飲みに行く新宿の「Dug」など、細かい一つ一つの固有名詞が小説に彩りを添えている。

そして、僕はこの作品に登場する「永沢」という男が大好きなのだ。

東大から外交官試験に合格し外務省に入る超エリートで、70人以上の女と寝て、プライドを守るためならケンカ相手が差し出したナメクジですら飲み込んでしまう男。

強さの象徴として描かれる永沢はひどく歪んだ性格をしているのだが、「僕」は永沢のまっすぐに突き進んでいくパワーに憧れているし、その強さには僕も惹き付けられる。

永沢は「僕」に対して多くの名言を吐いているのだが、その中で僕がもっとも気に入っている科白を紹介しよう。

「自分に同情するな。自分に同情するのは下劣な人間のやることだ」

まとめ

ノルウェイの森は、暗い、ぬかるみのよう小説だ。

物語は人々の死で満ちている。「僕」の親友キズキの死、キズキの恋人で「僕」が愛する直子の死、永沢の恋人ハツエさんの死、緑の父親の死。

それは「恋愛小説」と呼ぶにはあまりにもたくさんの人が死ぬ、欠落の物語だ。

だが、この小説が多くの日本人に受け入れられたのは、発売当時に「ちょっと昔のこと」になりつつあった、69年〜70年という、激動の時代に生きた若者たちの、リアルな胎動の物語だったからだと僕は考えている。

2011年のいま、はじめてこの小説を手に取る人は、舞台は現代ではなく1969年だということを認識して読むと楽しめるだろう。

日本の学生がヘルメットをかぶり角材や鉄パイプを握りしめて機動隊に突撃していった時代だ。

1969年は、もう42年も前のことになった。

だからこそ、今。

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