国境の南、太陽の西 by 村上春樹 に15年ぶりで再び巡り合う

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村上春樹さんの小説「国境の南、太陽の西」を久し振りに再読。

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村上春樹さんの小説では、僕は初期の作品への思い入れが強い。

初期の作品は何十回も読み返しているものもあるのだが、中期以降の作品はぐっと再読の頻度が下る。

この「国境の南、太陽の西」も、購入して一度読んだきりで、再読したことがなかった。

今回この作品を再読したいと思ったきっかけは、今年出版された新刊「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読んだこと。

「色彩を持たない〜」を読んでいて、僕はまず「ノルウェイの森」を思い出した。

なぜなら、いわゆる「この世のモノではない何か」が登場しない村上春樹さんの長編小説は珍しいからだ。

そのことは、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の書評にも書いた。

その書評エントリーはこちら。

 

多崎つくるとワタナベトオル、ユズと直子の物語 — 村上春樹が紡ぐものと繋ぐもの、そして喪失

 

 

この書評を書いている時に、「ああ、そういえばもう一作、化け物とか羊男とかが出てこない、リアリスティックな長編があったな」と思い出したのが、この「国境の南、太陽の西」だ。

どんな小説だったっけな?と想い出そうとしたが、「脚の悪い同級生が出てきて、青山のバーが舞台だった」くらいしか思い出せなかった。

ならばせっかくなので再読しようということになり、恐らく15年ぶりぐらいで本書を手に取ることになった。

 

国境の南、太陽の西

村上 春樹 講談社 1992-10-05
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成功した青年が主人公

この作品は村上春樹さんの長編としては、異色の存在だと感じた。

それは、主人公の「僕」が、資本主義社会の中で経済的に成功した実業家である、という点に端を発している。

多くの村上春樹さんの長編に登場する主人公は、パッとしない、どこにでもいる、地味で、そしてどこか反体制的なキャラクターであることが多い。

 

 

しかし、この「国境の南、太陽の西」の主人公は、青山に2軒の飲食店を持ち、外車を乗り回している。

幸せな結婚をして子供もいて、都心の高級マンションに家族揃って暮らしている。

彼の義父が事業家でその援助を受けて立ち上げたビジネスではあったが、彼は都心一等地に複数の繁盛店を持つオーナーであり、アルマーニを着こなすビジネスマンなのだ。

村上春樹さんの小説に出てくる主人公の中では、飛び抜けてマッチョで成功した男、という点がとても面白い。

この主人公の設定のおかげで、作品全体がとてもスタイリッシュに決まっており、バブル期の東京を思わせる独特のシルエットを作品に与えている。

そしてこの作品が出版されたのは1992年、まさにバブル最後の年、爛熟期であることを考えると、この作品にバブルの匂いが染みついているとしても、それは偶然のことてはないのかもしれない。

村上春樹さんの長編は、作品自体はスタイリッシュな部分がありながらも主人公はパッとしないダメ男、という設定が多い。

でもこの作品は、作品自体もスタイリッシュなら主人公もカッコ良い。

そういう意味ではこの作品、とても特殊だなあと感じる。

 

 

 

「多崎つくる」との類似点

「国境の南、太陽の西」は「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」とよく似た部分がある。

それは、著者村上春樹さんの体験をベースにしているであろうと想像すれば、同じ作者が書いているのだから似ていて当然、という考え方もできる。

そしてそういう意味では、この世のものではない何か、が出てこない「ノルウェイの森」「国境の南、太陽の西」、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の3作品の設定か似通っているのは、宿命なのかもしれない。

 

 

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」との共通点としては、主人公がともに大学進学を期に故郷を出て東京に移っていることが一つ。

そしてもう一つ、故郷にあった人間関係が若い時期に破壊され、それによって東京での主人公の大学生活がひどく味気なく単調なものとなったこと。

さらに言うならば、主人公はともに30代半ばになり、若い時に損なわれたモノに再び触れることになり、そこから過去の自分に再度対峙することになる、という点も似通っている。

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の主人公は捨てられる側で、「国境の南、太陽の西」の主人公は捨てる側であるなど、細かい違いは当然あるのだが、バックボーンは良く似ている。

その辺りは村上春樹さんの青春時代の一つの投影なのだと思って読むと、ひときわ味わい深い。

 

 

 

大人の男の小説

さて、「国境の南、太陽の西」は不倫の恋の話である。そして、主人公の「僕」が、自分から女性を口説くことができるという意味でも、他の村上さんの長編とは一線を画していると言えるだろう。

村上春樹さんの小説は、良くも悪くも女性がとても積極的に男性を口説き、男性は渦に巻き込まれるように恋に堕ちたりするわけだが、本書はひと味違う。

そして、象徴的な意味ではない、肉欲としてのセックスがリアルに描かれているという意味でも、大人の小説という印象を受ける。

村上さんの長編においては、セックスは性欲の発露としての肉体の合体という意味を遥かに超えた、象徴として描かれることが多い。「1Q84」や「ねじまき鳥クロニクル」におけるセックスがその代表だろう。

もちろんこの「国境の南、太陽の西」で描かれるセックスにも意味はあるし、象徴的な背景も当然与えられている。

だが、この作品における主人公は、ちょっとだけ他の作品群の主人公よりもマッチョでリアルな男性なのだ。

肉欲に突き動かされ恋人の従姉妹と猛烈にやりまくったり、かつての幼なじみの女性と交わるために奥さんに嘘をついて箱根の別荘に女性を連れて行ったりする(別荘を持っている主人公が村上春樹小説にかつていただろうか!)。

多くの村上小説には欠落している、マッチョな男性像がこの小説にはある。

もちろん村上さん一流の人物設定と舞台装置により、そのマッチョさはごく上品に仕上げられ、目立たないよう工夫されてはいる。

それでも、ここまで男性的にストレートな主人公は珍しい。

前回この作品を読んだ時にはそんなことは感じなかったのだが、今回久し振りに再読して、僕はこの作品は、「とても強い作品だ」と感じた。

それはもしかしたら、前回この本を読んでから今回再読するまでの15年くらいの間に、僕の人間としての経験値が上がったから、そう感じるのかもしれない。

 

 

 

まとめ

15年前の僕はまだ28歳くらいで、たぶんこの作品の深さを理解するには経験が足りなかったのだろう。

今回久し振りにこの本を手に取って、その深みに驚くとともに、過ぎたバブル期の東京の情景を想い、少し懐かしくなった。

僕自身43歳になり、離婚や再婚、そしてサラリーマンからの独立などを経験して読むこの作品は、まさに「大人の小説」という感じで、僕はとても気に入った。

 

 

村上春樹さんのエッセイで、この「国境の南、太陽の西」という作品は、もともとは「ねじまき鳥クロニクル」の一部として書き始めた原稿が分離して、そこからさまざまな紆余曲折があって今の形に仕上がったという話を読んだことがある。

「ねじまき鳥クロニクル」はこの世のモノではないモノがたくさん登場するし、主人公は失業中でしかも奥さんが浮気して出ていってしまうというダメ男である。

色々な意味で「国境の南、太陽の西」と「ねじまき鳥クロニクル」は対極的な作品というイメージなだけに、この2作品がもともとは一つだったというのは不思議な感じがする。

 

 

僕は村上春樹さんの作品が大好きなのだが、このブログを開始するずっと前に熱烈に読んでいた作品が多く、書評の数が少ない。

これからもポツポツと再読して、こうやって書評を書いていきたいと思っている。

毎度思うのだが、春樹さんの小説の書評はかなりマニアックで、一般の読者の方には退屈かもしれない。

でも、一部のハルキマニアの人には「そうそう」と頷いてもらえるのではないかと思いつつ書いている。

 

 

スタイリッシュな都会派小説。

大人の方にオススメです(^-^)。

 

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