秋の夜長に 思うこと  自閉編




1996年9月22日(日)

The Wagon / Dinosaur jr

astonishing insanity,





泳いでるみたいな感覚にふと襲われて自分でも驚く。 横殴りの雨が、僕の体中を一瞬にして包み込み、二度と離さないと いいながら抱きしめられているかのように風に縛り付けられる。

Crucification

アタマの中に膿がたまっててかったるくてしょうがないので、 ちょっと振ってみた。カラカラと乾いた音がしてる。

耳からアタマの中にも水滴がガンガン入っている。ワカメが 戻るみたいに、カラカラ鳴ってたカタマリがフワフワした妄想に 成長して、鼻孔から流れ出てくる。

傘もささずに暴風雨の中を歩いていると、自分のカラダから湯気が もうもうと立ち上る。17号のチカラが僕のカラダのほとばしりを むしり取ってどこかへ持っていってしまう。ああ、返してくれ。

せっかく立ち上らせたのに。

思いきり首を振ったら、隣を歩いていたお姉さんに思いっきり水滴が かかってしまい、ブラジャーをしていない乳首がはっきりと見えた。

もうだめだ

買ったばかりの狂気を握り締め、家に向かって走り始めた。

Smells Like Teen Spirit / Nirvana

家に戻ってきても呼吸が整わない。濡れた髪のまま放心していたが、 どうにもできなくなり、車のキーを持ち家を出た。

風雨はますます強くなり、車庫までの30秒間に、体中が再びずぶぬれになった。やっとのことで 車にすべりこみ、雨に濡れたジーンズからタバコを取りだす。湿ったタバコにはなかなか 火がつかない。3回目でやっとついた。

今度はキーをひねってもエンジンがかからない。なかなかうまくつながらない。くわえた タバコの煙が目に入ってくる。しみる。やっとエンジンがかかる。アイドリングなしで 暴風雨の中に跳びだした。

Ceaseless Continuity of Steady Friction of the Mucous Membrane

Don't Ask Why / My Bloody Valentine

ぎりぎりの状態で部屋に飛び込む。限界点をとっくに超えていた。

優しい顔をした、優しい瞳の、優しい色の中に、必死になって逃げ込んだ。

水を一杯もらい、タバコに火をつけ、抱きあう。

もつれるまま、ほとばしるまま、全てを感情の動くままにして、絡みあった。

風と雨の音、手足をもぎ取られまいと必死にこらえる木々の悲鳴が僕達の 高まりを、誰にも伝わらないように隠してくれた。

The Drowners / Suede

嵐が去らないうちに、すぐに海に行こう。早く行かなくちゃ、海が 待ってる。まどろむ間もなく、腕をとるようにして、再び水の中に向かって 泳ぎ始める。

正面を見据え、チカラを込めて、走り始める。すぐに水に飛び込む。一瞬のうちに 全ての背景が失われ、灰色の水だけが僕達を包み、全ての色が失われたかのように 思われるが、次の瞬間には力強い腕が、僕達を再び現実へと引き戻してくれる。

急がなきゃ、間に合わない。早く、早く。はやる気持ちとは逆に、ミドリ虫達に 足をとられて、なかなか思うように海に向かえない。

焦燥に身を任せて、さらに僕達は進む。

I Wanna be Your Dog / Stooges

国境の街。風速13メートル。

ああ、間に合わなかった。

ダメだ。もっと進みたい。ここまできて、帰れない。抜け道を探し、 何とか国境の橋にたどり着いた。

振り返ると、僕達が逃げ出した町並みが、どす黒く、雨に濡れて 泣いていた。

感傷的になることを拒み、前だけを見る。

橋が、長く、長く、長く感じられ、暴風に舞う木々の切れ端までが、 切なく思われてしかたなかった。

Alive and Kicking / Simple Minds

海の街と呼ぶにはあまりにも人工的な街だ。コンクリと 海と鉛のような雲のサクセション。

ああ、僕が求めていたものは、もう永劫手に入らないのだろう。 どうしても、何が何でも手にいれたかったのに。ああ。

荒れ狂う海を目前にして、全てを投げ出したかったのに。

鉄道の高架と高速道路の高架の交わりの下を、虚しく走る僕達の目の前に、 奇跡は突然起こった。

去りゆく嵐が散り散りになり、破片が空中を無数飛んでいた。

水平線に限りなく近い空から、黄金の太陽が突然僕達が捨ててきた、あの コンクリの塊の街と、国境のとてつもなく長い橋の、欄干だけを、まさに 黄金色に照らしだした。

突然の奇跡に僕達はパニックに陥った。てんで勝手なことを言い、てんで ばらばらな方向を向いて、どこに向かって走っているのかも忘れてしまった。

鉛色の海、鉛色の空、無数の粒子を含んだ濡れた大気の中に、あまりにも神々しく 輝く黄金の橋と黄金の町並み。

あっけにとられる僕達はただ、混乱するしかなかった。

しかし、それはまだ、ほんのプロローグでしかなかったのだが。

Friday I'm in Love / The Cure

呆然と、方向を失ったまま走る僕の横で、金切り声が 僕を正気に引き戻す。

「虹よ!虹よ!」

虹を見たいという衝動よりも、突然の金切り声に驚いて思わず車を止め、 バックミラー越しに背後を見る。

コンクリだらけのビルの間を縫うように走る鉄道路線の高架。そしてその 高架の真上からどこまでも高く、高く、高く伸びる七色の国境の橋。

今までに経験したことのない、異常な神経の高ぶりを感じ、再び アクセルを思いきり踏む。

必死に鉄道と高速の高架を振り切り、空が限りなく見える海辺にたどり着いた。

鉛色のサクセションだった空は、今は無数の小さな雲のばらばらな集まりになり、 てんで勝手な方向に進んでいた。そして、広い広い鉛色の空と、ほんの一部だけの 黄金色の空をまたぐように、あまりにも美しい、大きな虹が、僕達が逃げてきた あの街と、今僕達が逃げ込んだこの海辺の街の両方を包み込んでいた。

はっきりとした7色の外側に、微かに光る別の七色。14の色、14のベクトル。

呆然と車から降りた僕達の顔には、まだ横殴りの雨が微かに振り付け、 僕はタバコをつけようとするが、湿ったタバコに火をつけることを 強風が拒んでいるようだった。いいから黙って見ていろ、と。

Walk on the Wildside / Lou Reed

虹が僕達の前に存在したのは、恐らく3分以下だっただろう。

あの長い長い橋を黄金に変えた太陽は、すでにそのチカラを失い、もうすでに 雲と海の間の、鉛色の空間に姿を消しつつあった。

顔とカラダに細かい雨粒を受けながら、僕達はいつまでも虹のかけらが落ちては こないかと、ずっと待っていた。

僕達はトボトボと車に戻り、方向性を失ったまま、もう一度走り始めた。

黄金の光りをもう一度見ようと振り返った僕達は、大自然以外の何物も 創りえない、グレイから赤、赤から青、青からグレイへの見事なグラデーション にココロを奪われてしまった。

再び車を止め、エンジンを切り、息を止めて雲と太陽と富士山と大気と僕達と Lou Reedの創りだす奇跡を見届ける。言葉がでない。

Song to the Siren / This Mortal Coil

海辺に出てみた。長い長い、国境の橋は、パレードの車列が ひっきりなしに通り、灯る明かりの列が、スモグを吹きとばされた、神聖な 大気をフィルターして、鮮明に飛び込んでくる。いつもよりもいくぶん強い 波が、僕達の足元を浸しては、引いていく。秋が深まる。プラチナ色の月が、 リゾートの客室の上から、自信に満ちた顔をだしていた。夜が再び華やかになる。

奇跡に導かれるまま、僕達は再び国境の長い長い橋を渡ることにした。現実に もう一度身を投じる勇気を月に与えられて。

さっき僕達を封鎖しようとした警察の姿も消え、道路にウジャウジャとへばりついていた ミドリ虫達も、もう森に帰った後だった。

Oh! Patti / Scrritti Politti

安っぽいコーヒーと、トロピカルなお茶と共に、今日の 奇跡について僕達は話し続けた。まるで、僕達だけが、選ばれてあの 奇跡を体験できたと確信しているかのように。

夢を見ているかのように、僕達はもう一度だけ抱きあい、キスをして、 お互いの温もりを確認して、別れた。

もう、空には、一つの雲もない、深い黒い、秋の夜だった。

Orange Rolls, Angel's Spit / Sonic Youth

全ての余韻を引きずったまま僕は自分の気持ちを否定するために 暴走している。

あまりにも奇跡的な一日だった。何かに誘導されていたと考えるしかないだろう。

すべてが用意されていたとしか。

いや、そんなはずはない。偶然だ。僕達が、特別に選ばれていたなんていうのは 妄想だ。ただ、偶然、僕達は、そこに、いただけで。

今日手に入れたばかりの狂気に身を委ねようと努力するが、あまりにも強い一日の 余韻を消すことは、できないようだった。

この奇跡が現実だったのか、それとも単なる僕の妄想だったのかを知るためには、 僕はこのバーボンを飲み干し、眠るしか確認の方法が見つからない。

狂気に身を委ねたまま。ああ、重低音の、狂気。










Nora/ 夜久/ 野原/ 志織/ 石橋/ 武市/ 桂子/ 潮見/ PDPDP/ Akko/ 手島

Haru/ shin-ya b/ かおり

Kana

som1973/ フナイ/ 稀Jr/ 安原/ 山本/ 狂楽/ ばうわう/ わっちゃん
松木/ 藤間/ 諸星/ 赤尾/ 松永/ 岡田/ 江口/ Alice/ うえだ



ReadMe!    Nikki Engine     Tsuda Links





     







Past     Takeshi Tachibana     Future



August 1996

July 1996
June 1996   May 1996
April 1996   March 1996


Reach Me

(c) T. Tachibana. All Rights Reserved. 無断転載を禁じます。tachiba@gol.com