書評

傾聴術 — 「相手が本当に言いたいことを引き出す」技術を身につけよう

書評
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昨日に続いて「傾聴」に関する本をご紹介。

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人間の意識のうち、自らコントロールできている顕在意識は、全体のわずか3〜5%だという。

残りの95〜97%は、自分の意識下にない、潜在意識なのだ。

それはつまり、「自分のことは自分では全然分からない」ということを意味する。

そのため、自分の感情を自分でうまくコントロールできなかったり、言いたいことが上手く言えず感極まって涙が出たりする。

そして、潜在意識側に強い怒りや傷がある場合に、僕らはそれをスラスラと言葉にすることなどできない。

意識は幾層にも重なり、一番の核心部分に辿り着くことは簡単にはできないのだ。

しかし、人間が心の問題を抱えている場合、その「核心」の問題を取り除かなければ、根本的な解決にならない場合も多い。

そんな時に必要とされるのが、「傾聴術」だ。

「聴くだけでしょ?」と侮ってはいけない。話し手の言葉を正確に聴き取り、そして相手を導くことで、話し手が一番話したいことを話せる状態を作るのが、傾聴術だ。

そんな「傾聴術」を学ぶテキストが、タイトルずばり「傾聴術」という本だ。

 

傾聴術―ひとりで磨ける“聴く”技術古宮 昇 誠信書房 2008-08-08
売り上げランキング : 33949

by ヨメレバ

 

さっそく紹介しよう。

 

 

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表面的な言葉と本当の言葉

本書では多くのページを割いて、傾聴トレーニングの実践についての想定問答集が作られている。

そこにはさまざまな問題を抱えた人物が登場する。

不登校で苦しむ女子中学生や引き篭もりの息子を持つ母親、就職の面接が不安だと訴えるニートの青年などだ。

これらの人々が話し手となり、想定問答が書かれている。

 

 

そこで分かることは、人は誰しも、最初から本音でなんか話せないということだ。

話したくないから話さないのではなく、どう話していいのか分からない、というのが実際のところだろう。

聞き手を信頼していいのかも分からない状況で、自分自身も問題を抱え困惑しているのだ。

そのような状態で、理路整然と自分の抱える問題をスラスラ話せるわけがない。

 

 

そこで必要になるのが傾聴する技だ。

話し手の言葉一つ一つを聞き逃さず、そこに隠された重要なキーワードを探り、そのポイントに会話を誘導するのだ。

先ほど例に挙げた、不登校の女子中学生のやり取りを引用しよう。

女子中学生は元気なく沈んだ表情で、しんどそうにこう話した。

 

「今週も学校に行けなかったんです。行けない私はダメに思えて、悪いことをしているふうに思ってしまって……。これからもずっとこんなことが続くと思うと、どうしていいか分からないんです」

 

この中学生の言葉に対して、「学校に行けないからって罪悪感を持つ必要はありませんよ」や「とりあえず保健室まで行ってみれば?」などのアドバイスは的外れとなる。

ここで聞き手に求められるのは、話し手の苦悩、絶望を、ひしひしと、ありありと想像して傾聴できるかである。

中学生は単に「行きたくないから行かない」と反抗しているのではなく、「行かなければ親や担任に迷惑を掛けると分かっているだが、どうしても行けない」という苦悩の状態にある。

そこには必ず深いところに原因があるのだが、その原因に辿り着くためには、彼女に寄り添い、彼女を全面的に受容しているという信頼感を相手に与える必要がある。

そして、本書で示している適切な回答例はこちらになる。

 

「学校に行けないとダメで悪いことをしているように感じるし、これからもずっと行けないんじゃないかと思うと、すごく辛いんですね」

 

相手に対して「あなたが感じている想いはこれですよね?私はあなたを正しく理解できていますか?」と提示するのである。

正しく相手の言葉を汲み取れていれば、相手は話し手に正しく理解されたと安心する。また、仮に多少ニュアンスに違和感を感じたとしたら、「そうではなくて、私の想いはこうなんです」と軌道修正することができる。

いずれにしても、表面的な「学校に行けない」という事実に対して必要なのは、表面的アドバイスではない。

その根本にあるであろう問題に到達するためのステップとして、相手を受容し理解する、傾聴する姿勢こそが、大切なのだ。

 

 

 

受容による信頼関係が核となる言葉を引き出す

本書には、ある男性カウンセラーと、当時中学2年生だった、いわゆる非行少年と呼ばれた男の子との間に交わされた、実際の会話が収められている。

少年は小学校5年生の時から窃盗が始まり、恐喝、暴力、器物破損、女性下着の窃盗などの犯罪行為を繰り返してきたという。

会話が始まった時点では、少年は「担任に行ってカウンセラーの先生と話せと言われたから来たんですけど。何ですか、この部屋は」というように、敵意を剥き出しにしている。

それに対してカウンセラーは少年を否定も肯定もせず、相手の言葉を受容して、以下のように返していく。

 

「君としては、悪いという気持ちで反省しているにもかかわらず、こういう所へ来い、私に会え、と言われる。そこで、ちょっと、こころの引っ掛かりを感じるわけなんですね?」

 

カウンセラーが説教も否定もしないことで、少年は少しずつ自分のことを話し始める。

自分が反省していること、しかし警察や学校は自分を常に問題児として扱うことなどへの不満やいらだちを述べたあと、少年は以下の言葉を口にする。

 

「やっぱり、僕ら、あと一ヵ月で十四歳になりますけどね、そうなったら、鑑別所生きですか。警察ではね、「お前らはまだ十四歳になってないからかまわないけど、あと一ヵ月したら十四歳を越すんだから、鑑別所行きだぞ」と言われましたからね。僕のしたことを先生が知っているなら、やっぱり鑑別所行きですか」

 

この少年の問いに対しても、カウンセラーは直接の回答を返すのではなく、以下のように受容の意志を示しつつ、相手の気持ちを確認している。

以下会話の流れを引用しよう。

 

カ「警察で、なんか、こう、鑑別所に送ってやるぞ、と言わんばかりの脅し、そういうふうなことが、非常に、こう」

少「当たり前ならぶちこんでやるのに、お前はまだ十四になってないから無理だ」と言いやがったんです」

カ「ふん、ふん、非常に、そんな言い方、警察のやり方が、しゃくに障ったんですね?」

少「しかし、僕の友達で少年院に行った奴もいますからね。悪いことしたんなら、やっぱり、鑑別所に行ってしまうかもしれませんね。やっぱり、十四を越したら、入るのは嫌ですからね。悪いことは分かっているから、やめますけどね。しませんけどね。で、また、けんかをしたら、警察は僕に目をつけていますからね

 

このように、少年は徐々に自分の心境を語り始める。

「鑑別所に入るのは嫌だ」「悪いことは分かっている。でもまたやってしまうかもしれない」

そう言ったやり取りから、さらに進んで「親に告げ口されるのは辛い」という方向へと話が進んでいく。

 

 

少年はカウンセラーとの対話により心を開き始め、その後も対話を続けたという。

やがて、彼の問題行動は止み、成績は劇的に向上する。そして大学に進学し、大手企業に就職することとなった。

この変化について、著者の古宮さんは以下のように解説している。

 

悩み苦しむ話し手が、「自分のことを自分の身になって分かってくれた、尊重してくれた」と感じるとき、「人間を信頼してもいいんだ」と感じはじめます。その意味で、話し手のここころのなかでは、聴き手はすべての人間を代表する存在なのです。そして「人間を信頼していいんだ」と分かるというのは、「自分自身を信頼してもいいんだ」と分かることです。

 

表面的な言葉だけを聴いて無難なアドバイスを返すことよりも、相手を受容し傾聴することが、はるかに大きな力を持つのだ。

 

 

 

まとめ

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僕らは人から相談を受けたときや悩みを打ち明けられた時、つい「気の利いたアドバイスを返さなければ」と考えがちだ。

しかし、話し手はほとんどの場合、聴き手に対してアドバイスなど求めていない。

話し手が求めているのは、絶対にあなたのことを裏切らない、あなたのすべてを受容する、という安心感の中で、一つ一つ自分の想いを口にする時間なのだ。

聴き手は話し手に寄り添い、話し手が玉ねぎの薄皮を一枚ずつを剥くように、本当に語りたいことに辿り着くルートを、一緒に歩むことが求められている。

「傾聴」。僕らはつい、自分のことばかり話したがって、相手の話を聴くことができなくなる。

しかし、相手の話を聞くこと。肯定も否定もせずに寄り添うことこそが、最高のコミュニケーションツールなのだ。

傾聴力、磨いていこう。

 

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