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渡邉美樹氏ツイートについて思うこと

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ここ数日、ワタミグループ会長の渡邉美樹氏のTwitterでの発言について、さまざまな発言を読んだ。

僕は渡邉美樹氏のファンである。

もちろん個人的な面識はないので、あくまでも渡邉氏の書籍「夢に日付を!」を通じて僕が一方的に渡邉氏を知っているにすぎないのだが、この本のファンだ。

そんな渡邉美樹氏のTwitterでの発言が問題となっている。

4年前に自殺した元社員の女性の労災認定(つまり「過労死」であったと認定されたこと)に対する発言だ。

この発言に対し、多くの批判が噴出している。簡単にまとめているサイトがこちら。

そして自殺した元社員の労働環境についての詳細も公表されている。

世間の論調は「こんな酷いことをして、労災認定されたのに「労務管理 できていなかったとの認識は、ありません」とはどういうことだ」という点に集中しているように見える。

ファンと公言する僕ですら、この発言はひどいし、すべきではなかったと感じる内容だ。

都知事候補にまでなり、高い注目を浴び立身出世のお手本のように見られてきた渡邉氏は、何故このような不用意な発言をしてしまったのか。

著書を通じて僕が感じることを書いてみたい。

追記:2014年にワタミ赤字転落について書いた記事もご一読ください。

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渡邉美樹氏ツイートについて思うこと

仮説

冒頭に書いたとおり、僕は渡邉氏を個人的に知っている訳ではないし、身内にワタミ関係者がいることもない。

別に店としての和民は好きでも嫌いでもない。生活圏内には和民がないので、滅多に行くこともない。

あくまでも僕が彼の著書や雑誌記事などで発言してきた内容から類推する人となりから、仮説を立てたに過ぎず、根拠がある文章ではないことを最初にご理解いただきたい。

さて、僕が立てた仮説では、渡邉美樹氏は今回のツイートについて、まったく悪いと思っていないだろうと考えている。

なぜ僕がそう考えるに至ったかを、簡単にまとめてみたい。

鋼の意志の人

渡邉氏の著作を読むと分かるのだが、この方は本当に意志が強い方だ。まさに鋼の意志と言って良いだろう。

若い時から高い理想を掲げて佐川急便で働き開店資金を貯め、「つぼ八」のフランチャイズ店を出し、そこから一代でワタミグループをここまでの規模に育て上げた。

本の中にも、渡邉氏の鋼鉄の意志を強く感じる箇所が幾つもある。

その中には、「20代は仕事のことだけ考えればいい」や「睡眠時間を削ってでも手に入れたかった教養」など、自分を追い込み厳しい環境で努力をし続けた軌跡が書かれている。

そしてその自分への厳しさが、時として部下への厳しさへと転化されてしまっている記述もある。

幹部の部下がインフルエンザで40度の熱を出して仕事を休んだ日に、「一日に一回しか職場に電話を入れなかった」という理由で本気で怒ったと書かれている。

そしてそこには、「たとえ休んでいても、仕事のことが心配で心配で仕方ないというのが、本来あるべき姿なのではないでしょうか」とも付け加えられている。

強い人間が、意志の力で自分を追い込むのは良い。他人に迷惑がかからないからだ。

でも、その厳しさを他人に要求することは、時として危険ではないだろうか。

インフルエンザで40度の熱がある人に向かって、会社に一度しか電話を入れなかったから怒鳴るというのは、どうだろう。

怒鳴られた幹部は、次からどんな病気で具合が悪くても出社するようになるだろうし、その幹部の部下にも同じように「体調不良でも休むな」と強要するようにならないだろうか。

そして、このように他人に厳しい姿勢を書籍に書いて出版してしまうということは、「40度の熱がある社員を働かせるのが当たり前だ」と渡邉氏は考えているのではないか、と僕は想像してしまう。

何故ならこの一節から、「意志の弱い社員を矯正する正しく意志が強い辣腕経営者」という姿勢が見えるからだ。

強すぎる経営者の下のイエスマン

どんな会社でもそうだと思うが、創業経営者の権限は強い。

ましてや、インフルエンザで40度の熱があっても「働け」「働くのが当たり前」と公言する創業者会長に、「そんなに働かせてはダメです」と言える部下がいるだろうか。

高い利益率と成長を維持しつつ安価で料理や飲み物を提供する。

和民は居酒屋チェーンだ。単価が安く付加価値が低いゾーンでのビジネスだから、差別化が難しい。

有機野菜を使うなどの工夫をしたところで、僕の知る限り、他の居酒屋チェーンと劇的に違うという印象を持ったことはなかった。

「まあまあの居酒屋」ぐらいのイメージだ。

そのような現実の中で、店長ら現場幹部には非常に高い「必達目標」が課せられていたのではないかと推測する。

「夢に日付を」の中で渡邉氏は何度も繰り返し店舗数と年商についての「日付の入った夢」を熱く語っているからだ。

適当な売上・利益目標では、適当な結果しか出ないのは当たり前だ。

僕は親が飲食店を経営していたり、学生時代にずっと飲食業のアルバイトをしていたこともあって経験がない人よりは飲食業の実態を知っているつもりだ。

飲食業界はもともと労働時間が長く、環境が厳しい。

「午前3時に仕事が終わり始発まで待たされた」とロケットニュースの引用にあるが、それを聞いても僕は別に驚かない。

もともとの飲食業界というのは、そういう「ノリ」が許されている世界だと感じているからだ。

キッチンの人がランチの仕込みのために朝8時に出勤し、そのままランチ営業をこなし、夜の仕込みをして店を出るのは午後11時。

僕が勤めていたアルバイト先でも、そのような勤務が当たり前と見なされていた。

そのような現場の因習がある飲食業界で、「40度の熱があっても働け」というカリスマ経営者がいて、高い達成目標を掲げた幹部が間にいたら、その労働環境はどうなるだろうか。

ワタミの場合は企業理念が高尚で、強い企業であろうとしたことも裏目に出ているように思う。

休日がほとんど座学とレポートで終わってしまっていたというのも、渡邉氏からすれば、「目標を持ち夢を叶える強い人間にするための努力」ということになる。

だが、つい先日まで学生だった若い女性にしてみれば、「そんなことは大きなお世話」なのだ。

恐らく渡邉氏が大きく勘違いしてしまっているのは、「夢というのは、本人が叶えたいと強く願った時に初めて実現に向かうものであって、上司や経営者から押し付けられるものではない」ということが、まったく理解できていない点だろう。

「寝ないで働き一獲千金を夢見る」のは渡邉氏であって、社員ではない。

他人の夢に干渉しようとし、他人の夢を制御しようとしたことが、今回の発言を呼んだのではないかと思えてしまう。

トップへの正しいレポートはあったのか?そして経営者は現場にいたか?

これも推測だが、僕は渡邉氏の周囲にはイエスマン的な幹部が多くなってしまっていたのではないかと思う。

するとどうなるかというと、渡邉氏の逆鱗に触れるような情報は集まらなくなるのだ。

都合の悪い報告はあがらなくなる。だから経営者は「現状でOK」と判断する。

経営は手品ではないのだ。

安い商品単価で高い売上を上げ、利益を上げる。

店の大きさと営業時間は決まっているのだから、あとは回転率を上げ客単価を上げ、従業員数を減らし人件費をギリギリに絞るしかない。材料費は決まっているのだから。

アルバイトを外国人にして時間単価を減らし、人数も絞る。

すると当然社員にしわ寄せがいく。

シフト勤務のアルバイトが削減された穴埋めのために社員は通し勤務となる。

本来なら、ここで「これ以上は無理だ」という判断をしなければならない現場幹部は、果たして「無理です」という報告ができる環境にあっただろうか。

仮にその報告があったとして、本部の幹部たちはその問題を本気で解決しようとしただろうか?そしてその席に渡邉氏はいただろうか。

今回問題が発生している中渡邉氏がバングラディッシュに渡航したことについても批判が出ているが、渡邉氏は教育や介護などビジネスの多角化、そして政界進出など、常に前を見て新規開拓の最前線を突っ走っているように見える。

たとえば今日、ワタミグループの中で、倒れてしまうくらい過酷な労働をさせられている人が、ある地方都市の店舗に新入社員として配属されていたとして、バングラディッシュにいる渡邉氏は、その正しい報告を受けられるのだろうか。

部下は勇気を持って「社員を休ませてください。これ以上は無理です」と進言できるのだろうか。

そして渡邉氏は、「俺は社員の幸福を考えている。社員は20代は死ぬほど働いてこそ幸せになる」と考えていないだろうか。

だとすると、ワタミには社員の過労死をストップさせるための安全弁が存在しない、ということになってしまわないだろうか。

まとめ

社会に出たばかりの若者が自殺をしてしまう労働環境に問題がないわけがない。

しかも、今回の一連の渡邉氏の発言を見る限り、渡邉氏には悪気はまったくないのだ。

だとすると、これは本当に大問題で、実は「ワタミグループ」という上場企業は、多大なる社員の自己犠牲を大前提としないと成り立たないビジネスモデルだということになる。

そしてそのビジネスモデルを作り上げた渡邉氏自身が、このビジネスモデルが大問題だと本気で認識しない限り、今回と同じような悲劇は繰り返される可能性が高いのではないかと危惧してしまう。

劣悪な労働環境の現場というのは世の中に山ほどある。

僕もそういう場所に身を置いていた時期があるので分かるのだが、そういう環境を作っているのは経営者で、普通は経営者は労働環境が劣悪だということを認識している。

労働環境を改善したら利益が出なくなる。儲からないと商売にならないから、分かって放置しているのが通常だ。

だが、ワタミの問題は、渡邉氏が自社の労働環境が劣悪だとは思っていないという点だ。

だからこそ、高邁な理想を掲げ都知事にも立候補し、バングラディッシュにまで出かけていき理想を追求しているのだ。

渡邉氏は、ワタミグループの社員全員が渡邉氏の理想を追求するためには死んでもいいと思っているのではないか。

この記事を書くために「夢に日付を!」を読み返して、少し怖くなった。

もちろんキレイごとだけで世の中片づかないことは百も承知だが、「人間の弱さ」に無自覚で「鋼の意志」を持つ経営者が「辣腕を振るう」ことは非常に危険だ。

自分より弱い人の気持ち、うまくできない人の弱さを受け止めて受容できるように、自分に常に問い掛けをし続けないといけないと強く思った次第。

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