書評

個人のための新型ドラッカー! 書評「プロフェッショナルの条件」 by P. F. ドラッカー

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ドラッカーの著作は過去に何冊か読んだことがある。

だが、当時は残念ながら、あまり面白いとは感じなかった。

仕事で必要に迫られて読んだせいかもしれないが、内容は企業の経営者に向けたもので、しかも規模が大きな会社の社長に向けて書かれているように感じたのも原因の一つだったように思う。

それ以来、ドラッカーは「いつか機が熟したらそのうち読むもの」と位置づけていた。当分読むことはないだろうと。

しかし、本書「プロフェッショナルの条件」を手に取ってみて驚いた。過去に読んだドラッカーと違うのだ。

 

プロフェッショナルの条件―いかに成果をあげ、成長するか

P・F. ドラッカー ダイヤモンド社 2000-07
売り上げランキング : 362

by ヨメレバ

 

 

本書「プロフェッショナルの条件」が、僕が過去に読んだドラッカー本と大きく異なっているのは以下の3点。

 

  • 企業経営者向けではなく、個人に向けて書かれている
  • インターネットの普及なども含め情報が新しい(出版が2000年)
  • 日本に対する記載が多い

 

まず第一の根本的な違いとして、本書は企業経営者向けの本ではないということだ。

時代が変化して企業の寿命よりも個人の寿命の方が長くなったとドラッカーは説く。従って、我々は一つの企業に就職して定年まで勤めればそれで終わり、という時代ではなくなった。

そして企業側でも終身雇用という概念がなくなり、企業と個人はプロフェッショナル同士の契約によって活動をする時代へと変化しつつある。

従って、我々ビジネス・パーソンは一人一人、本当の意味で「プロフェッショナル」として知識と教養で武装しスキルを高め、生き残っていく必要がある。

この論理展開、どこかで聴いたことがないだろうか?

そう、まさに「パーソナル・ブランディング」の理論そのままなのである。本書は日本語版の出版が2000年だが、オリジナルの原稿は主に1990年代後半に書かれている。

この時期に既に「パーソナル・ブランディング」についての深い考察を述べているというのは、猛烈な先見性と言わざるを得ない。凄いことだ。

 

次に2つ目のポイント、情報が新しいという点も興味深かった。

以前読んだドラッカーの本はいずれも1950年代〜60年代に書かれたものだった。いわゆる「古典」的扱いで、GMやらフォードやらというアメリカのビッグネームの話題が多く取り上げられていた。

帝国主義が終わり資本主義の時代になった時期で、資本主義と大企業の成り立ちについて学ぶのには良い教材だったが、やはり情報が古い印象で、「学習」以上の興味は当時持てなかった。

だが本書「プロフェッショナルの条件」は情報が新しい。ドラッカーは現代2000年代を「ポスト資本主義」の時代と定義して、経済の主役が大企業から個々人へとシフトしていくと分析している。

これも10年以上前にこんなことを書けるのかと驚愕するほどの鋭い分析で、個人の時代だからこその「時間管理」、「優先順位付け」、「意思決定」、「人生のマネジメント」など、最近の自己啓発本に登場するキーワードが目白押しである。

当時80歳を越す高齢だったことを考えると、この思考の柔軟性と先見性は半端ではない。

 

そして3つ目のキーワードは日本である。

本書は複数のドラッカーの著作から、個人に係わる文章を抜粋し再構成したものとのことだが、冒頭はドラッカー本人による日本の読者に向けた序文から始まる。

そして本文中にも日本企業と日本人に関する記載がかなり多く登場する。決してえこひいきしているわけでなく、公正に日本企業と日本人の優れた点や成功例、そして失敗例やこれからの課題についての洞察がある。

やはり日本人として、日本や日本人に関する記述が多くあると、我が事として真剣に受け止めやすいし、具体例も豊富で分かりやすい。

特に身に染みたのは、日本企業と日本人が積極的に採用してきた終身雇用制度についての記載。

終身雇用制が崩壊し、ポスト資本主義へと移行するにあたって、終身雇用制で高い組織力と国力を発揮してきた日本にとっては、この大きな転換へのハードルが他の国よりも高いという洞察で、これがまさにいま日本が直面している大問題なのだと改めて認識させられた。

 

本書はノウハウ本ではない。本書を読んだからといってすぐに何かスキルが身につくタイプの本ではない。

だが、ドラッカーの深い洞察と先見性に触れることで、脳の奥に何か電流のようなものが走る感覚を憶えたことは確かだ。

こういった頭のトレーニングを重ねることで、今までよりも、より深く遠くまでを見通す力が身につくのではないだろうか。

そんなことを想像させる名著。読んで良かった。

それにしても、2000年に初版が出版されて、去年の5月で第59刷とは恐るべしである。どれだけ売れているんだこの本は!

 

2011年40冊目の書評としてお届けしました。

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