心・心理・あり方書評

家族連鎖のセラピー ゲシュタルト療法の視点から by 百武正嗣 〜 あなたの悩みは先祖からの代送り?

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百武正嗣さん著「家族連鎖のセラピー」という本を読んだ。

あなたは「家族連鎖」という言葉を聞いたことがあるだろうか?

恐らくほとんどの人は聞いたことがないはずだ。

ご存知の方も多いと思うが、僕は一昨年から岡部明美さんのLPL養成講座を受講するなど、セラピー/カウンセラーとしてのあり方、技法などを学んでいる。

そして、岡部明美さんのセラピーの考え方のなかに、今日取り扱う「家族連鎖」がひんぱんに登場する。

僕はLPL養成講座を受講するまで、「家族の連鎖」を改めて考えることはまったくなかった。

しかし、LPL養成講座で、人間の性格や固定観念には、多くの「家族連鎖」が入り込んでいて、僕たちの言動に大きな影響を与えていることを知った。

今回、9期LPL養成講座を再受講するにあたり、百武正嗣さんの「家族連鎖のセラピー」を課題図書として読むことになった。

LPL養成講座、そしてLPLアドバンスコースで学んだことが体系的・包括的にまとめられていて、再受講を前に読むのに最高の一冊だった。

さっそく紹介しよう。

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家族連鎖のセラピー  ゲシュタルト療法の視点から by 百武正嗣 〜 あなたの悩みは先祖からの代送り?

家族とは?

僕たち人間は、誰でも親から生まれたことを知っている。

そして、僕たちは日常的な会話で「母親似」とか「親譲り」とか「だれに似たんだろう?」なんて言葉を平気で使っている。

家族とは一般的には親と子、それに親の親や、子供の子なども含め、血縁で繋がった人たち同士のことを指す。

親と子は遺伝子レベルで繋がっているため、顔や体型、声やしぐさなど、身体的にも似ている家族も多い。

また、性格や性癖、趣向や得意不得意など、内面的な部分にも共通点が見られることも一般的に良く知られている。

「親譲り」「生き写し」「カエルの子はカエル」など、僕たちは親から子、子から孫へ、人間としての特性が受け継がれていくことを当たり前のように知っている。

しかし、親から子へと譲り渡され、共有されていくのは、性格や体格など、固定されたものだけではないことを、僕たちは意外としらない。

家族連鎖とは?

「家族連鎖」とは、親から子、そして子からさらにその子へと、家族の中で「価値観」や「観念」「行動パターン」などが無意識のうちに受け継がれていくことを指す。

それらの価値観のなかには良いものもあって、それらは「家族の風習」「○○家のしきたり」というような形で受け継がれていけば良い。

しかし、家族連鎖には、往々にして、引き継ぐ必要がないものも含まれている。

そして、当事者である家族たちは、それが「家族連鎖」によって無意識で引き継がれたものだとは理解できていない。

当事者それぞれは、それは自分固有の価値観であり性癖であると思い込んでいる。

しかし、実はそれは、自分が幼少時代に親がやっていることを見て、「そういうものなのだ」と刷り込まれてしまった、「固定観念」に過ぎなかったりする。

一例として、本書で紹介されている家族連鎖のパターンについて紹介しよう。

ある30代の男性が百武さんのセッションを受けた。

その男性は会社や交友関係などでは優しく穏やかな性格なのだが、妻と娘に対しては感情的になり、怒鳴り散らしてしまうことについて悩んでいた。

その男性は、娘を怒鳴りつけたときに、娘から「怒りん坊のお父さんなんか嫌い!」と叫ばれてしまった。

彼はその言葉に予想外に強く動揺した。

なぜなら、その言葉は、彼が子供時代に母親に対して「本当は言いたかった言葉」だったからだた。

彼の母親は穏やかな父にいつも怒りをぶつけ、その姿をいつも見ていた彼は、心の中で「怒りん坊のお母さんなんか嫌いだ!」と繰り返し叫んでいたのだ。

つまり、彼は幼い頃に母親が自分の子供にやっていたことを、そのまま受け付いで、自分の妻と娘に対して行ってしまっていたことになる。

さらに、次のセッションには彼の母親が一緒にやってきた。

母親も、自分が怒りの感情をコントロールできず、夫を怒鳴りつけてしまうことを辛いと感じていたという。

そこで、夫の代役を一人選び、その人に向かって「あなた、なにしてるの!!」と怒鳴ってもらった。

母親は怒りつつ泣声になったという。

なぜ怒りと一緒に悲しみの感情が湧くのかに興味をもった百武さんは、母親を夫の代役に背中を向けて、同じように怒鳴ってもらった。

夫の代役に背を向けた状態で「あなた!なにしてるの!」と怒鳴った瞬間に、母親は「あっ、分かった!」と叫んだ。

母親は、心の奥では、自分の夫を怒鳴っていたのではなかった。

彼女は幼い頃に、自分の母(つまり男性からみると祖母)を家で怒鳴りつける自分の父(男性からみると祖父)に、「お父さんやめて!」と言いたかったのだ。

「言いたかったけれど言えなかったこと」「やりたかったけれどずっとやれなかったこと」というのは、「未解決の問題」「未完了の感情」として、人の心にずっと残り続けてしまう。

母は子供のころに、「自分が大人になったら母親の代わりに父に怒ってやる」と誓って成長した。

ところが、実際に自分が成長する頃には、祖父は穏やかになり、家族の諍いはなくなり、母本人も、そのようなことを誓っていたことは忘れてしまっていた。

しかし、母本人が徐々に年齢を重ね、自分の夫がかつての父と同じくらいの年齢になったときに、幼少のころに誓った「未完了の怒り」が、父の代わりに夫に向けて放出されてしまったのだ。

祖父から母へ、母から息子へ、そして息子からその娘へと、未完了の感情が代送りで連鎖してしまっていたのだ。

本人たちはそのことに気づかず、それぞれが「自分の性格をなんとかしたい」と悩んでいた。

今回は、相談者の娘さんが3代目にしてはじめて、言葉に出して「お父さんなんか嫌い!」と言えたことで、「未完了の感情」の連鎖が逆向きに流れ、問題が俎上に上がった。

未解決の問題、未完了の感情は、親から子、子からまたその子へと無意識に受け継がれてしまうのだ。

家族連鎖を断ち切り自らの人生を取り戻そう!

多くの家族連鎖は、意識化されることで、断ち切ることができる。

人間が抱える多くの問題は、その問題が意識化された時点で、解決に向けて大きく動き出しているものなのだ。

子供に暴力をふるう父親は、多くの場合、自分も幼少期に親から暴力を受けて育ったという。

情緒不安定な人の親もまた情緒不安定で、その親の姿を毎日見て育った人は、その親の「未解決の問題」を無意識に繰り返してしまう。

「やめたいのにやめられない」「自分のこの性癖をなんとかしたい」と思い悩んでいる人は、それが自分固有の問題なのか、家族連鎖なのかを見ていくことが大切だ。

なぜなら、実はそれは自分の問題ではなく、先祖代々から順番に送られてきたものを、単に受け継いで「自分の役割」として演じているに過ぎないかもしれないからだ。

まとめ

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百武さんは、家族の問題について、非常に印象的なことを書かれている。

「家族の葛藤の多くの背景にあるのは「家族の問題」ではなく、「愛情の不足」から産まれた世代間の伝承が絡まっているのです」

「私たちは、家族の問題を「問題」として解決しようとします。しかしそこには答えが見つかりません。問題ではなく、愛が「もつれて」しまっただけなのです」

家族の問題を「問題」と捉えて理性的に解決しようとしても、答えは見つからない。なぜならそれは、「問題」ではなく、「愛のもつれ」だから,という捉え方は、とても腑に落ちた。

負の家族連鎖は、当事者が「これは家族連鎖だ」と認識し、それぞれが抱える「未解決の問題」「未完了の感情」を解放することで、断ち切られていく。

自分が属する家族。たとえいまは一緒に暮らしていなくても、たとえ親はすでに他界していても、自分が幼い頃に属していた家族。

幼かった自分は、そのときの家族、親や祖父母、兄弟などから何を受け取ったのか。そして、何を「言えなかった」のか、なにを「できなかったのか」。

家族から無言で受け渡されたモノを、あなたは今、自分の子供や孫に押し付けようとしていないだろうか?

深く豊かな気づきを与えてくれる一冊だった。

オススメです。

「家族連鎖のセラピー」のチェックはこちらから!

 

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