江戸・東京・町書評

百日紅 by 杉浦日向子 — 名作 遥かなる江戸に想いを馳せる

江戸・東京・町書評
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普段ビジネス書や健康に関する本を読む機会が多いが、僕は「東京」「江戸」に関する本も好きだ。

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杉浦日向子さんの漫画が好きだ

なかでも杉浦日向子さんの本が好きで、漫画も文章の本もたくさん読んだ。

杉浦さんの本は、彼女がまだ元気だった頃、いまから15年〜10年前くらいにかけて集中的に読んだが、その後離婚やら引っ越しやらでどこかに行ってしまった本が多い。

彼女の漫画の中では、僕は断然「百日紅」が好きだ。

彼女が麻布十番で講演をされたことがあって、僕は聴きに行き、その後「出待ち」をして本にサインをしてもらったのだが、それがこの百日紅だった。

そのサイン本も、離婚のドタバタでなくしてしまった。

今回、「ああ、百日紅が読みたいな」と思い、久し振りにちくま文庫版を買い直した。

文庫版には、もともとの単行本には収録されていないお話しが下巻の最後に付いていてお得なのだ。

再読して、とても良い気持ちになった。

紹介しよう。

百日紅 (上) (ちくま文庫)

杉浦 日向子 筑摩書房 1996-12
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百日紅 (下) (ちくま文庫)

杉浦 日向子 筑摩書房 1996-12
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葛飾北斎と娘お栄の物語

この「百日紅」は漫画である。

漫画であるが、とても豊かで美しい「作品」として仕上げられている。

舞台は文化・文政期の江戸。

主人公は浮世絵師の葛飾北斎と、その娘お栄である。

お栄はすでに成人しており、北斎とともに絵師として活動している。

北斎は気難しく自分が描きたい絵しか描かず、気に入らない注文はお栄が代筆してたりもしている。

つまり、お栄は素人が見たら北斎の絵と見分けが付かないくらい、筆が立つ絵師であるのだ。

北斎とお栄はごく普通の町人として江戸に暮らしており、修業中の渓斎英泉が「善次郎」という名で居候している。

「百日紅」は、この3人が文化・文政期の江戸の町を舞台にさまざまな絵を描き、人々と触れ合う物語である。

 

 

 

江戸の豊かさを見事に伝える

「百日紅」の素晴らしさの一つは、江戸という時代を徹底的にリアルに描き切っていることだ。

杉浦日向子さんはただの漫画家ではない。彼女は江戸の研究家であった人物だ。

だから、登場人物のちょっとした所作や背景、暮らしっぷりなどの細かい点が、とてもリアルに、そして活き活きと描かれている。

たとえば北斎が朝に歯みがきをしているシーンが出てくる。

「江戸時代にも歯ブラシがあったんだ!?」と驚くことになる。

そしてそのときの北斎が着ているのは、布団に手を通す穴があいた「どてら」のようなもの。

「こんな格好して寝てたんだ!?」とまた驚くことになる。

食事のシーンもたくさん出てくるが、ご飯の盛り付け方、料理屋の格による膳の出し方の違いなど、本当に細かいところまでしっかり描かれている。

そこに描かれる江戸時代は、完全なる和の世界であり、当たり前のように豊かである。

もちろん杉浦さんは意図的に江戸の町を豊かに描いていたのだと思うが、それでもうっとりしてしまう。

僕たちの先祖はこんなにも豊かな町に暮らしていたのかと。

 

 

 

絵師を描く漫画家の執念

この作品には、北斎はじめ多くの絵師が登場する。

絵師が登場するということは、当然ながら彼らが絵を描くシーンがたびたび出てくる。

それらの絵についても、杉浦さんは徹底的に描き込んでいる。

北斎が描く龍の絵や、歌川国直が料理屋のふすまに描く松の木の絵などは、漫画の一シーンとは思えない完成度だ。

杉浦さんは若くして漫画を描くことを止めて引退してしまったわけだが、その理由の一つに、「ちっとも上手にならないから」ということを本人が何かのときに言っているのを読んだことがあった。

彼女は恐らく漫画家になりたかったのではなく、浮世絵師になりたかったのではないかと思うことがある。

この「百日紅」には、杉浦さんの「執念」を感じることがある。

それぐらい、この作品には、彼女の「絵師」としての強い思い入れがあるように思う。

 

 

 

登場人物に感情移入して江戸に行きたくなる

百日紅に登場する人物は誰も彼もがみな、とても愛しい。

北斎、お栄はもちろん、国直、お政などの準レギュラー陣も個性豊かで愛嬌があり、とにかくいとおしい。

僕はこの作品を読むたびに、作品の中に描かれる国直に自分がなってしまうような気持ちになる。

そして実際「国直に似ている」と言われたこともある(あくまでも百日紅の国直に似ているという意味)。

感情移入しているうちに、どんどん僕はこの作品の中に入り、江戸に行って彼らとワイワイ暮したくなってしまう。

彼らと一緒にぶらぶら散歩をし、夜なき蕎麦を食べ、夏の夕暮れにスイカを食べ、そして浅草のほおづき市に繰り出したい。

こんな豊かで平和な時代なら、タイムマシンで行ってみたい。

自分の足で江戸の町を歩き、自分の目で北斎たちが描いた江戸を見てみたい。

そんなことをいつも思うのだ。

 

 

 

まとめ

杉浦さんが亡くなってもう9年になる。

あまりにも若く突然の訃報だったが、彼女の晩年の作品には、死を覚悟していることが滲み出ていて、読んでいて切なく哀しかったことを思い出す。

長い闘病生活だったというから、肉体の苦痛から解放されて今はゆるりと満足されているのかもしれない。

この「百日紅」を読み返すたびに、杉浦さんにはもっともっとたくさん「百日紅」のお話しを描いて欲しかったと願ってしまう。

10巻でも20巻でも、50巻でも、この素晴らしい舞台と登場人物の物語を読みたかった。

そんな勝手なことを思ってしまう。

でもきっと杉浦さんは、この2冊を描き切るだけで、疲労困憊してしまったのだとも思う。

それぐらい精緻で豊かで美しい、素晴らしい物語だと思う。

これからも繰り返し読み返す、本当の名作。

まだ読まれていない方はぜひ読んでみてください。

本当に素敵です。オススメ!

 

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