江戸・東京・町書評

雑踏の社会学 by 川本三郎 — 東京 街歩きが好きだ

江戸・東京・町書評
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僕は街歩きが好きだ。

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東京生まれ東京育ち、しかも変化の激しい都心の麻布で育ったせいか、昔から街の変化や街の歴史にすごく興味がある。

先日亡くなった祖母が子どもの頃良く「オリンピックの前はね」なんて話を聞かせてくれていたことも影響しているかもしれない。

30歳くらいから街歩き、とくに地元麻布と下町を歩き回り、ふらりと酒場に立ち寄って一杯飲むことが趣味になった。

そしてデジカメが普及して気軽に何枚でも写真が撮れるようになってからは、カメラを手に街歩きをすることが多くなった。

そしてそれに伴って、街歩きに関する書籍や写真集、雑誌なども良く読むようになった。

最近は公私ともにバタバタしていて、なかなかゆっくり街歩きができずにいたが、最近また街歩き熱が高まってきた。

そんな折りに読んだ本をご紹介しよう。川本三郎さんの「雑踏の社会学」という本だ。サブタイトルが「東京ひとり歩き」となっている。

 

雑踏の社会学 (ちくま文庫)川本 三郎 筑摩書房 1987-06
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さっそく紹介しよう。

 

 

 

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街歩きが好きだ — 雑踏の社会学

 

元祖街歩きエッセイスト

街歩きが好きな方なら川本三郎さんのことをご存知の方も多いだろう。

川本さんは映画評論家や文芸評論家として活躍されているが、東京の街歩きエッセイイストとしても有名な方だ。

僕はどういう経緯で川本さんのことを知ったかはもう憶えていないが、30歳前後の、街歩きを始めたかなり早い段階で川本さんの著書と出会い、かなりの数を読んだ。

「東京街歩きエッセイ」としては、古いところでは永井荷風氏の「日和下駄」や池波正太郎氏の「銀座日記」なども有名だ。

あと、変わったところでは、エドワード・ファウラー氏の山谷潜伏期「山谷ブルース」なども面白かった。

川本三郎さんのエッセイは、どこかノスタルジックで、でも現代の東京を否定するのではない、絶妙のバランスで書かれている。

そして文章に街に対する愛着と温かみがあるのも特徴だ。

僕の中では「街歩き」といえば川本さん、という位置づけが定着している。

まさに元祖街歩きエッセイストというイメージだ。

 

 

 

昭和から平成への時代の変化を読む

この本はかなり古い。出版されたのは1984年だが、もともとは雑誌連載の記事を集めているので、記事が書かれたのはもう少し前、1982年〜1983年ぐらいではないだろうか。

1984年といえばいまから30年前、僕はまだ中学生である。

時代はまだ昭和で、バブルの元凶となったとされる1985年のプラザ合意よりも前の時代だ。

この本では、新宿、渋谷、吉祥寺、池袋、赤坂、銀座、麻布十番などの街を川本さんが歩き、そして論じている。

そこに登場するそれぞれの街は、当然いまの街ではない。30年の時間をさかのぼった街の顔がそこにある。

そこに登場する若者たちは30年前の若者たちであり、そこで捉えられている時代のうねりも、30年前のうねりなのだ。

個人的に特に面白かったのは、地元でもある麻布十番に関する記述だ。

当時の麻布十番には地下鉄が一本も来ていなかった。

そして六本木ヒルズもまだ陰も形もない時代。

一世を風靡したディスコ、マハラジャすらまだオープンしていなかった時代だ。

当時の麻布十番は「陸の孤島」と呼ばれ、寂れた商店街しかない。

川本さんは麻布十番の様子をこのように書いている。

 

「この町はいまでも「下町」と呼びたい雰囲気が残っている。商店街には高いビルはほとんどない。大半は二階家の個人商店である。路地に入るとタイ焼き屋がある。商店街の中央には午後の四時から店を開けている「あべちゃん」という居酒屋がある。やきとん一本百円である。店の脇に一本柳の木があるのがなんとも懐かしい。

 

30年のときを経て、麻布十番の町は激変したといっていいだろう。

「あべちゃん」もタイ焼きの「浪花家」も健在で大繁盛しているが、どちらの建物もビルになっている。

そしてもはや商店街には二階家の個人商店はほとんどなくなり、ペンシルビルがひしめく町になっている。

バブル経済による地価高騰、地下鉄の開業、そして六本木ヒルズの開業のトリプルパンチを受けて、麻布十番の庶民性・下町的な雰囲気は大きく後退した。

いまでは麻布十番は「オシャレな町」として多くの人に認識されている。

鯛焼き屋やあべちゃんのような古い雰囲気のお店以上に、高級イタリアンやフレンチなどの名店がひしめき、六本木以上にハイソな町になってしまった。

自分が住む町が「オシャレ」と認識されることは悪い気分ではないが、30年前にこの本が書かれた頃とはかなり違う顔の町になっていることは間違いない。

この本を読んでいろいろな町の30年の変化を感じたが、もしかしたら麻布十番が一番大きく変わった町かもしれないと感じた。

 

 

 

一人で歩き一人で呑む快感

若いときは「酒を飲む」という行為は、「誰かと一緒に飲む」ことを意味していた。

しかし30歳をすぎ、東京街歩きをするようになってから、僕は一人で飲む楽しさを知るようになった。

もちろん誰か一緒に話をしながら街歩きをするのも楽しい。それも捨てがたい魅力がある。

でも、一人で町の持つさまざまな表情を眺め感じつつ、雑踏の中を一人歩き、そして目についた飲み屋に入り一人飲むことが「楽しい」とは、それまで知らなかった。

 

 

東京というのは基本的に「匿名」の街である。

お互いがお互いに干渉しない、部外者だからといって邪険にもせず、かといって干渉することもない。

一人知らない街の飲み屋にふらりと入っても、「誰この人」という顔をされることもなく、かといってベタベタとくっついて話をされることもない(そういうことも稀にあるが少ない)。

雑踏の中にいても孤独になれるのだ。

数え切れないほどの人が行き来する街の中で、匿名の一個人として、ただ街を歩き、静かに飲む。

ひとり歩きとひとり呑みは、それが快感なのである。

 

 

川本さんの街歩きには、必ず飲み屋が登場する。

歩いたら、呑む。これがセットなのだ。

そして川本さんの文章には、常に静けさが漂っている。

その静けさこそが、ひとり歩きとひとり呑みの持つ匿名性なのだ。

 

 

 

まとめ

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東京は巨大な街だ。

そして巨大さゆえに、「東京」という1つの顔ではなく、街ごとにまったく違う表情を持っているのが特徴だ。

渋谷には渋谷の顔が、六本木には六本木の顔がある。

そしてそれらの顔は、その街に根付いている人の表情にも表れていると僕は思う。

新宿を根城にして活動している人たちには共通した「新宿の人の顔」があるし、浅草に集っている人たちには「浅草にいる人の顔」がある。

 

街の雰囲気、人の雰囲気を感じながら歩くのは楽しい。写真を撮るのも楽しい。そして一人でふらりと知らない店に入って呑むのも楽しい。

街歩き関係の本を久し振りに読んで、また街を歩きたくなってきた。

カメラを片手に、一人ぶらりと街に繰り出すとしようか。

せっかくノマドになって平日出かけられるのだから、平日の街の顔を眺めにいこう。

 

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