書評

杉浦日向子さんの「江戸へようこそ」を久し振りに読み返して

書評
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久し振りに杉浦日向子さんの「江戸へようこそ」を読み返してみた。

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今から10年ほど前に、江戸幕府が開いてから400周年ということで、ちょっとした江戸ブームが起きた。

そしてその時期僕は、西東京市から麻布十番に引っ越してきて、久し振りに麻布に戻ってきて嬉しかったこともあり、「麻布の歴史」について調べるのが趣味になった。

巷の江戸ブームと僕の中の麻布の歴史ブームが合体し、江戸時代のことを調べるのがとても楽しく、すいぶん色々な本を読んだ。

その中の一冊が杉浦日向子さんの「江戸へようこそ」だった。

杉浦さんの漫画はもっと前から読んでいたが、エッセイは10年ほど前から読むようになり、かなりの数の本を読んだ。

 

 

そしてそれから10年が経ち、2,013年5月に僕は再度麻布に戻ってきた。

知らない土地に住んでいると歴史探訪に対する興味が湧かないものだが、故郷に戻ると自然とそちらに対する興味も復活してくるものだ。

久し振りに江戸時代の古地図を引っ張り出して眺めたりしていて、ふと杉浦さんの本を久し振りに読みたくなった。

どうせ読むなら、古い順に読破しようかと思って、年代順を調べたら、この「江戸へようこそ」が漫画以外では一番古いようなので、久々に手に取った。

 

江戸へようこそ (ちくま文庫)杉浦 日向子 筑摩書房 1989-02
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読んでみて驚いたのが、この本は極めて真面目な切り口で書かれている、本気の江戸初心者ガイドだったことだ。

杉浦さんは2005年に46歳という若さで癌のため亡くなった。

僕の中では彼女の後期のエッセイのイメージが定着していたのだ。

後期のエッセイはゆったりのんびりした雰囲気で綴られ、ほんわかとしていたり、クスクスと笑えるものだったりが多い。

なので、この「江戸へようこそ」も軽快な杉浦節を予想して読み始めたのだが、この本はそういった後期のエッセイとはまったく異質のものであった。

 

 

「江戸へようこそ」は、往時の「リアルな江戸」はどういう様子であったかを解明することに徹底的にこだわった本だ。

江戸の、特に風俗面にクローズアップしているのが特徴だ。

吉原、春画、そして戯作など、従来の歴史書が敢えて触れてこなかった、本当の庶民視点の江戸をまっすぐに深く掘り下げているのが本書だ。

 

 

女性である杉浦さんだからこそのストレートかつドライな切り口で、当時の吉原通いの実態や浮世絵における春画の位置づけ、さらには江戸庶民のセックスに対する意識などが、ごく淡々とした口調で語られていく。

その語り口はエッセイというよりは学術書に近く、杉浦さんがいかに真摯に江戸と向き合っていたかを再認識することになった。

彼女の江戸を描いた多くの漫画は、このような深く実直な江戸に対する研究があってはじめて、あそこまでのリアリティーを持ったのだなあ、と感慨に浸ることになった。

 

 

僕は2003年か2004年に杉浦さんの講演を聴く機会があった。

場所は麻布十番会館、実際にお会いした杉浦さんは小柄で、ずっとニコニコしながら、本当に楽しそうに江戸について語られていたのを思い出す。

講演終了後、僕はずうずうしくも「出待ち」をして、杉浦さんの代表作「百日紅」にサインをしてもらい、そのうえ握手までしていただいた。

ほっそりして小さく暖かな杉浦さんの手の印象がとても穏やかで優しかったのを鮮やかに思い出す。

その時もすでに身体のお具合はあまり良くなかったことが後日判明するわけだが、ご健在なら今でもまだ53〜54歳なのだから、本当に早すぎる旅立ちとしか言いようがない。

 

 

久し振りに杉浦さんのご本を読んで、とても懐かしかったし嬉しかった。

これからちょこちょこ時間を見つけて杉浦さんの著作の再読を進めていこうと思う。

 

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