書評

友だちの友だちが太るとあなたが太る理由

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伝染病でもない肥満が他人から友人を経由して自分に伝染する。あなたはその事実を信じられるだろうか。

友達同士が意見を交換し議論した結果、お互いに影響を及ぼす。

一緒に暮らす夫婦は長い間に趣味や嗜好が似ていく。

こういった話は良く聞くし、特に違和感なく受け入れられるだろう。

だが、会ったことも名前も知らない他人が太ると自分も太るのだ、と聞かされたなら、あなたはすぐに納得できるだろうか?

本書「つながり — 社会的ネットワークの驚くべき力」は、そのような驚くべき人間の社会ネットワークの力を調査・解読した力作である。

 

つながり 社会的ネットワークの驚くべき力 

ニコラス・A・クリスタキス 講談社 2010-07-22
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by ヨメレバ

 

 

6人を経ると世界中の全ての人と繋がれる

 

 

もしあなたがアメリカ大統領のオバマ氏と繋がりたいと考えたとする。

オバマ大統領と直接の知人という人は少ないだろう。

でも、あなたの知人に国会議員はいないだろうか?

もしくは国会議員の友達がいそうな友達はいないだろうか。

もしあなたの身近にそういった人がいれば、あなたはもうオバマ大統領と繋がる直前だ。

国会議員は数百人の村社会だ。

国会議員には必ず首相や首相経験者とつながりを持っている人がいる。

その人達は仕事でオバマ大統領と繋がっているだろう。

整理するとこういうことだ。

 

 

あなた ⇔ 友達 ⇔ 国会議員 ⇔ 首相 ⇔ オバマ大統領

 

 

この図式だと4次のつながりでオバマ大統領と繋がった。

同様に、ロッド・スチュワートだろうがイチローだろうがベルルスコーニ伊首相だろうが、同様の図式で世界中の人と6次まであれば繋がることができるのだ。

 

 

僕らは他人の他人の他人から影響を受ける

 

 

僕らは友達や仕事の同僚と繋がって生活している。

だが、そのつながりは直線的ではなく、クモの巣状に広がっている。

僕はAさん、Bさん、Cさんと知り合いだが、AさんとBさんもお互い知り合いというケースは当たり前のようにある。

だがBさんとCさんはお互いを知らない。そして僕が知らないところでBさんとCさんには共通のDさんという知人がいるというケースもある。

この場合に、Dさんがカッコいいガジェットを持ってBさんに見せたとする。

BさんはDさんが見せたガジェットを気に入って購入し、それを僕に見せる。

僕もそれが欲しくなってゲットした。

この場合、僕はBさんから影響を受けていると思っているが、実は会ったこともないDさんからの影響を受けていることになる。

このようなケースが、社会では当たり前に起こっている。しかも毎日猛烈な勢いで。

 

 

友達の友達が太るとあなたが太るわけ

 

 

肥満は現代病の代表とされる。

僕らは些細なきっかけから心と身体のバランスを失い、その結果摂取カロリーが消費するエネルギーを上回り、肥満に陥る。

肥満という症状自体はウィルスではなく、他人に伝染する性質のものではないとされてきた。

だが、本書の研究でアメリカの若者ネットワークを詳細に調べたところ、肥満も社会ネットワークの中で伝染することが分かったのだ。

ネットワークの中の誰かが何らかのきっかけで肥満になる。または肥満の人がネットワークに入ってくる。

すると、周囲の人たちも太り始めるのだ。

具体的には、肥満の人は大食いで、その大食いの友人に誘われて一緒に食事に行き続ける友人達もやがて太り始める。

そしてその友達たちの周囲にいる人たちも、その友人達に引きずり込まれるように体重が増加し始めるのである。

最初の原因となった人と直接関わりがない人たちは、当然肥満が伝播していく原因について無自覚である。

だから、単に「最近ちょっと食べ過ぎているなあ」とか「太り気味だから何とかしなきゃ」と思う程度だ。

だが実際には、食べ過ぎる友達と一緒に食事に行ったり会話したりすることで、その相手の嗜好サイクルや行動結果に影響を受け、それが自分の体形と体重に影響を及ぼしているのである。

同じように、喫煙も他人の他人の他人から伝染する。そして自殺も伝染してしまうことが、調査の結果解ってきた。

 

 

そしてソーシャルネットワークの時代がやってきた!

 

 

産業革命以前の時代、伝染病は数年の時間を掛けて社会に広がっていったという。

その頃は人々の行動半径がわずか数キロ程度しかなかったため、人々は、せいぜい隣村の人と接触する程度しか移動しなかったからだ。

だが、21世紀に入って伝染したSARSという肺炎の場合、中国で発生した伝染病の保菌者は国際線の飛行機でカナダへと飛んだため、その翌日にはウィルスは地球の反対側に到達してしまった。

飛行機というネットワークによって、SARSは伝播のスピードを速めたのだ。

今のは病気の例だが、僕らか言語を使って取るコミュニケーションのスピードは、航空機の代わりにインターネットとソーシャルネットワークによって爆発的に加速した。

人間の人口が同一だとしても(実際は増えているが)、個々の人間同士のつながりの数が猛烈な勢いで増えているのだ。

僕たち人間は常に誰かとつながり、そしてその誰かも別の誰かと繋がっている。しかも光の速さでだ。

僕らは集団で思考し集団で決断する。そんな時代がついにやってきたのだ。

 

 

まとめ

 

 

僕たちは常に自分のことは自分で決めていると思っている。

だが、本書を読むことで、そのような思考自体が常に他人から影響を受けていることが、科学的に証明されたことを知る。

友達の影響を受けるなんて当たり前じゃないかと思うだろう。

だが、僕らはその友達の後にいる、名前も知らず会ったこともない誰かの影響を強く受けているのかもしれない。

そしてそのスピードは日々加速し、つながりはどんどん深く複雑になっていく。

本書はノウハウ本でも自己啓発本でもないので、結論を導くものてはない。

だが、僕らの行動と思考の習性を知り、社会ネットワークの意志を知ることで、これからの生き方は大きく変化していくことになるだろう。

今僕がこの文章を書き、その文章をあなたが読み、それを僕が知らない誰かに話し、その誰かがその話に興味を持ちこの本を買い、その本を友達に貸して…。

社会は繋がっている。そして僕らの心も。

 

 

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2011年の57冊目の書評としてお送りしました。

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